猫も人も幸せになれる住まいづくり[第3回]

猫が安心して過ごせる居場所をつくる

空間
キッチン
関心
建築リフォーム

入っていい場所、だめな場所

 猫のためのリフォームで比較的要望が多いのは、脱走防止ではなく、入ってはいけない場所への侵入防止扉なのだそうです。

「キッチンなど食品があるところに猫は入りたがります。そこで、侵入されないようにしたいというお話をよく伺います。
 ただ問題もあって、その空間に出入りしないように扉などを設置することはできますが、そうすると今度は人が使いにくくなってしまいます。キッチンを閉鎖的な空間にすると、料理や食器などの出し入れに手間がかかりますし、出入りで扉を開けるときに一緒に猫が入ってきたりもします。
 玄関への動線も、うっかり扉や柵を閉め忘れるなど、ささいなことでわずかな隙間ができることもあります。人が外出から帰ってきて玄関を開けた瞬間に、猫が家の外に逃げてしまうこともあります」

脱走防止は大切

 家を飛び出した猫を探して、SNSで呼びかけている投稿を見かけることがあります。散歩や旅行に連れて行ける犬とは異なり、外に出ることがない猫なのに、飼い主がうっかりすることでするりと逃げ出してしまうのです。

「特に保護猫の場合は警戒心が強いです。少しでも玄関が開いていると、ちょっとしたきっかけでそこから逃げ出してしまうことがあります」

 窓から逃げてしまうケースもあります。

「外の空気を入れるために、窓を開けて網戸だけにすることもあると思います。けれど、大きな猫だと網戸をひっかいて開けてしまうんです。網戸が開かないようなストッパーが付属しているものや、ひっかいても破れないペットネットを使った窓にするのもいいですね」

LIXILの網戸
https://www.lixil.co.jp/lineup/window/amido/variation/type/

猫が楽しく過ごせる「居場所」とは

 猫が脱走する理由には、家の中に自分の居場所をうまく見つけられないということもありそうです。

「猫は自由な生き物ですから、自分が居心地のいい場所を見つけるとそこでくつろげるようです。例えば、部屋の中の少し高くて全体を見渡せるような場所は好きですね。あと、外を眺めるのが好きな猫も多いです。高い位置に、開かない小窓を設けるのもいいかもしれません。外が見えるというのは、猫にとってはすごく安心感があるようです」

第1回でも触れたキャットウォークやキャットタワーなどはどうでしょう。

「多頭飼いの場合、部屋をぐるりと回れるキャットウォークもいいですね。ただし、キャットウォークを設置するときは、ほかの猫が通行できなくならないように、必ず2カ所以上に上り下りができる場所をつくることが必要です。

 キャットタワーに関しては、好む猫と好まない猫がいますが、好むようであれば市販のものを置いてみたり、キャットステップを設けることをお勧めしていきます。LIXILの『にゃんぺき』シリーズを勧めることもありますよ」

「にゃんぺき」シリーズは、石膏などの家壁の上にマグネットパネルの壁材をプラスし、そこにマグネット式のステップを自在に取り付けられる、猫のための壁です。猫が歳を重ねてキャットステップに上らなくなったらレイアウトを変え、花を飾ったりする棚として使うこともできます。

「また、猫たちが動き回りたいのかを見極める必要があります。高いところが好きな猫なら、部屋を見渡せる『居場所』を考えてあげるといいと思います。その上で、そこに上がりやすいステップなどを設けるのがいいでしょう。いろんな部屋に出入りをする猫なら、移動していい部屋のドアや壁にペットドアを設けるのもいいでしょう」

辛抱強く「居場所」が決まるのを待つ

 猫は、ある程度決まったところで食事やトイレをします。けれど、虐待を受けてきたり、さまざまな事情で保護された猫たちは、家にやってきてもそう簡単に新しい生活に慣れてはくれません。

「おびえた目をしてケージの中から出てこなかったり、出てきてすぐにどこかに隠れてしまったり、エサを食べなかったり、なかなか人間に心を許してくれないことがあります。保護猫が壮絶な生活の中で受けてきたことを考えると、すぐになつけというのも無理な話で、数カ月、中には半年以上かかる子もいます」

 辛抱強く接していると、少しずつ心を許してくれるようになります。食べる場所や、トイレの場所がだんだん決まってきます。実際、保護猫を引き取ってからリフォームをされたある施主さんは、猫がキャットステップに乗るようになって、やがてキャットステップの横にあるクローゼットの中に設けたハンモックで寝るようになるまで8カ月かかったと言います。今ではクローゼットの扉を開けると、一目散にそこに飛び込むほどお気に入りの場所になったそうです」

 猫が自分の居場所を決めるには、時間がかかります。焦らず、猫と対話しながらお互いが心地よく過ごせる空間をつくり上げていきましょう。

≪お話を伺った方≫

大路信宏(おおじのぶひろ)さん

愛猫家と愛犬家のために新築工事やリフォーム工事を提案するイーグル建創のペットリフォームの専門サイト「わんにゃんホーム」担当者。自身も愛猫家・愛犬家。東京・町田に見学可能なショールームがある。

文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
写真提供◎わんにゃんホーム(トップ画像)
画像◎Shutterstock

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