料理家に学ぶキッチンづくり[case 4:第3回]

料理の味を底上げする「昆布」のチカラ~松田真枝さん

空間
キッチン
関心
ライフスタイル学ぶ

 松田さんはイタリア料理を得意とされていますが、同時に「昆布を愛する料理家」です。
 さまざまなメディアで昆布に関する連載を持ち、日々の生活に昆布は欠かせない食材だといいます。なぜ、そんなに昆布愛が高まったのでしょう。

「イタリアで料理を勉強して感じたのは、いろいろな地方の料理の多彩さでした」

 私たちが持つイタリアンのイメージといえば、「トマト、ニンニク、オリーブオイル」ですが、松田さんが見たイタリア料理の真の姿は、まるで違っていたそうです。

「イタリアは長細い国で、地方によってさまざまな食材が収穫されます。それを元に、その土地の特色を活かした料理が受け継がれているのです。トマトがたくさん取れる地域では、それをそのまま使うだけでなく、水煮にしたり保存がきくようにしたりして、1年中使います。それぞれの地方で穫れた特徴のある野菜などを組み合わせて、多彩な料理にしていくんですね」

 日本でも、土地によってさまざまな野菜がつくられ、海産物も豊富です。

「イタリアの料理家は、自分の住む土地の歴史と食材を愛して、それを料理にふんだんに使って味を表現しています。日本に帰ってきて、私にとって、それはなんだろうかと考えたときに、浮かんできたのが昆布でした」

 そこから昆布に、はまっていくんですね。

「そういえば、昆布のことはあまり知らないな、と勉強を始めたら、これがおもしろい食材なんですね。食文化オタクなので、なぜ、北海道で獲れた昆布が沖縄で盛んに使われているのかとか、いろいろ調べていくうちに、昆布のとりこになってしまいました(笑)。実は、昆布が日本の歴史を動かしたような側面もあるのに、全然知られていなくて、これはもったいないな、と。昆布の素晴らしさを子どもたちにも伝えていきたいな、と思ったんです」

 昆布は沖縄でも盛んに使われています。
 たとえば「クーブイリチー」は、北海道から船で運ばないと手に入らない食材である昆布が主役の料理です。

「昆布は何よりもまず、保存性に優れているんですね。生鮮食料品は加工をしなければすぐに傷んでしまう。けれど、昆布は干すことによって、常温でも保存できるようになります」

 昆布は、和食のだしを取るときに使うことが多いですが、種類も値段もさまざまで、選び方もよくわかりません。

「そうでしょ(笑)! 昆布にはさまざまな種類があるんです。基本は、大きく分けて5種類。真昆布、利尻昆布、羅臼昆布、日高昆布、長昆布です。他にも、厚葉昆布やがごめ昆布などもありますが、それぞれ、食べるのに適した昆布、だしを取るのに適した昆布などがあります」

 家庭で5種類の昆布を使い分けるのは、なかなか大変そうです。日々つくる料理の方向性によっても、変わってくるでしょう。
 売り場で見てみると、かなり値が張るものからお手頃なものまで並んでいて、どれを選んで良いのか迷ってしまいます。

「おすすめは羅臼昆布です。売り場では、ちょっと値段が高いように思えますが、毎日の料理にちょっと使う分には、たいした金額にならないでしょう。グルタミン酸がとても豊富で、料理が美味しくなります。羅臼は煮たり、だしを取ったりすると柔らかくなるので、そのまま食べるのにも向いています。まずは羅臼昆布を買ってきて、使ってみてください!」

 そのうち、昆布のことがだんだんわかってくると、料理によって昆布を使い分けたくなってくるそうです。

昆布は「味の底上げ」をしてくれる

 昆布を日々の料理に取り入れるのは、とても簡単だと松田さんはいいます。

「昆布をパキパキと小さく折って、いろんな料理にちょっと入れてみましょう。そうすると旨みが出て、味の底上げになります。昭和の頃は、化学調味料を何にでもかけましたよね。その役割を昆布に任せるんです。昆布の旨みは、もっと優しくて、複雑さがあります。だからこそ、どんな料理にもパキッと折って入れるだけで、美味しくなるんです」

 また、昆布は一度使って終わりではない、優れた食材とのこと。

「湯豆腐や水炊き、鍋料理などに昆布を使いますよね。だしを取ったあとの大きな昆布は、そのまま冷凍してしまうと良いでしょう。佃煮にするのはよくある活用方法ですが、何か別の煮物などをするときに、落とし蓋にするのもいい手です。そうやって、二回使ったらありがとう、よく働いてくれました、という気持ちになって、食材も成仏したかな、と思えるんです(笑)」

和食だけではない、昆布の使い道

昆布のだしがらを使った、ミートソースのパスタ。
まさに松田さんらしさが詰まった一皿です。

 また、和食以外にも、昆布はさまざまな料理をレベルアップしてくれるそうです。

「例えば、わたしはパスタを茹でるときに、昆布をひとかけら入れます。すると、お湯に加える塩の量を減らせるのです。大阪のイタリアンレストラン・ポンテベッキオの山根大介シェフも、料理に昆布を入れているそうです。昆布を使うことは、減塩にもつながります。塩分量が気になる方にも、昆布はとても使える食材です。美味しさを加えながら、他の食材の味を邪魔しないという点でも、優れていると思います!」

 松田さんの昆布愛が、ひしひしと伝わってくるようです。

「昔は、道民にとって、昆布は買うものではなくもらうものだったんですよね(笑)。今考えれば、超贅沢です。以前、大阪の友人とお鍋をつくって食べたときに、だしを取った昆布をそのまま捨てようとして怒られたくらい。地味に見えますが、日本の食材を代表する、とても貴重なものです。日本に生まれたからには、日本の食文化を大切にしていきたいですね」

≪お話を伺った方≫

松田真枝さん

北海道在住。昆布を愛するイタリア発の料理家。北海道で料理教室を開きながら、雑誌「dancyu」のWEBサイトで「昆布はどこへ行く。」、Webメディア「エシカルはおいしい!!」で「昆布のテロワールを訪ねて」などを連載している

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)