料理家に学ぶキッチンづくり[case 4:第2回]

「キッチンばさみ」が大活躍!~松田真枝さん

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 料理が好きで、イタリアまで料理修業に行った松田さん。勉強のために最初に選んだのは、大都市ミラノやヴェネツィアではなく、シチリア島だったといいます。

「イタリアの地方料理を勉強したかったんです。本場での修業を決めたとき、自分の中で、シチリアに行かないと始まらない、と思ってしまって。イタリア料理の本などをいろいろと読んでいるうちに、なんとしてもシチリアから始めなければ、イタリア料理はわからないんじゃないかと思ったんですね」

 そんな松田さんが、現地で驚いたことのひとつが、食材の切り方だそうです。

「ホームステイ先のおばあちゃんが、生のほうれん草をキッチンばさみでざくざく切っていて、びっくりしたことがきっかけなんです。もう包丁なんて知らないわ、という勢いではさみを使っていました」

 ヨーロッパの方は、日本のように何でもまな板の上に置いて、大きな包丁でカットするのではなく、小さいペティナイフのようなものを使って、手のひらの上で切るのを、TV番組などでもよく見かけます。

「最近はだいぶ変わってきて、大きなナイフを使うようにもなっていると思いますが、イタリアのおばあちゃんたちは、本当に小さいナイフで何でも切りますね。それ、かっこいいなあと思って。もちろん、はさみもどんどん使います」

 日本の包丁のように、きれいに切れなくても良いということなのでしょうか。

「それは、材料を切るときの考え方の違いもあると思います。スパッときれいな断面で切るのではなく、ある程度ガタガタになっていると、そこから食材の味が出てくるんです」

 たしかにニンニクなども、細かく切るのではなく、潰すだけで使うこともありますね。

「日本の料理は、きれいに作るということをとても重要視しますので。きちっときれいに切った方がいいもの、たとえばお刺身などは、包丁で引いた方が美味しくなります。けれども、薄切りのお肉やベーコンなんかは、はさみで切っちゃいますよ」

 松田さんが使っているのは、ドイツ製のキッチンばさみ。世界で最も古い刃物ブランドのひとつで、世界中にファンが多いことで知られています。意外にも、2000円以下で買える、家庭用の手頃なものです。

「もうずっと使っていますね。2つ用意して、使いまわすほどのヘビーユーザーです。教室のみなさんにも、信頼するメーカーの、買いやすい家庭用をおすすめしています。少しお高いもので用意しても、何年も使えるものですし。そうそう買い換えるものではありません。料理教室の生徒のみなさんや自分も信頼するメーカーのものを何年も使っています。魚を捌くときでも、ヒレを落とす作業など、はさみでできる部分は、はさみで処理してから包丁を入れると、とても楽なんです」

フードプロセッサーは、
しまうと使わなくなる

 もうひとつ、松田さんがぜひとおすすめするのがフードプロセッサーです。

「もともと、コンパクトミキサーのようなものは使っていたんですが、イタリアで家庭のキッチンを見せてもらうと、どの家にもフードプロセッサーがあるんです」

 フードプロセッサーを買ってみたはいいものの、なかなか使う機会がないという方も多いのではないでしょうか。どうすれば普段から活用できるようになるでしょう?

「使った後に、いちいち収納しないことです(笑)。一度しまってしまうと、また出してきて組み立てて、というのが面倒になってしまうんですね。毎日使うようにして、その代わり出しっぱなしにする。私が愛用しているのは、国内メーカーのもので、料理の鉄人・道場六三郎さんモデルです。洗いやすさも抜群ですし、キッチンに置いていても素敵です」

 この連載にこれまで登場していただいた料理家の方は、ハンディミキサーやコンパクトミキサーをおすすめしていました。

「ハンディミキサーでも同じ使い方が出来ると思いますが、収納を考えなければ、据え置きにできるフードプロセッサーは、作業が早いと思います。タマネギのみじん切りもあっという間、大根おろしもふわふわにつくれます。調理にかける時間がある程度決まっているのであれば、どこに時間をかけるか、という事なんですよね。作業は短ければ短いほど良い。その分、野菜からじっくり味を煮出して料理を美味しくするとか、そういうことに時間を使いたいと思うんです」

「作業」を減らせば、暮らしが楽しくなる

 キッチンばさみとフードプロセッサー。そして1回目でお伝えした食洗機。

 どれも料理の「作業」を楽にする道具です。毎日料理をする人にとっても、めったにしない人にとっても、キッチンに立つハードルを下げるものですね。

「私は、イタリア料理を勉強しようと思った理由が、食文化に惹かれたこと以外にもうひとつあるんですね。みんながつくれる料理というか、自分もそんなに手先が器用な方ではなかったので、そんな人でも楽しくつくれるということを考えたときに、イタリア料理はぴったりで素晴らしいと思ったんですよ」

 次回は、松田さんのキッチンに欠かせない、日本ならではの食材「昆布」について伺います。

≪お話を伺った方≫

松田真枝さん

北海道在住。昆布を愛するイタリア発の料理家。北海道で料理教室を開きながら、雑誌「dancyu」のWEBサイトで「昆布はどこへ行く。」、Webメディア「エシカルはおいしい!!」で「昆布のテロワールを訪ねて」などを連載している

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)

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