料理家に学ぶキッチンづくり[case 4:第1回]

毎日使うキッチンは、「動線」が大事!~松田真枝さん

空間
キッチン
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 北海道の食材を使って、つくる人はもちろん、生産者もうれしくなる料理を発信する松田さん。さまざまなイタリアンを、自身が開く料理教室や、雑誌などのメディアで紹介しています。

「イタリアンにはリストランテで出されるような料理もありますが、その基本になるのは、やはり家庭の味です。『マンマのパスタが最高だ』という言葉も、実際によく聞く話ですね」

 家庭料理が生み出されるのは、もちろん自宅のキッチンから。

 松田さんは、料理教室や撮影のために小さな部屋を借り、仕事としての料理は主にそこでなさっているそうですが、もちろん、ご自宅でも毎日の食事をつくっています。

「私が住んでいるのは、築20年のマンションです。新築の物件を購入して、母と2人で住んでいます。分譲マンションなので、キッチンも自分の要望を出すということはなく、ごく一般的なキッチンそのもの。リフォームもせずに、買ったときのそのまま使っています」

 自宅キッチンは、最近人気の対面型ではなく独立型。間口も、それほど広くはありません。

 写真の手前側が入口で、細長い空間の左側がシンク、右側に冷蔵庫と食器棚。奥に見えるワゴンには、フードプロセッサーやオーブントースターなどが置かれています。

「食器棚は、昭和の時代からずっと使っているものを、そのまま入れました。奥は勝手口になっていて、その前にゴミ箱を置いています。コンロは、IHの急に温度が上がる感じが好みではなかったので、ガスにしました」

キッチンだけでは入りきらないので、リビングにも食器棚を設置。

 IHならではのメリットもたくさんありますが、料理家の方は比較的ガステーブルを好まれることが多いようです。

「収納が足りないので、居間にも食器棚を置いて、そこに分散してしまっています」

キッチンは「動線」が重要

松田さんが料理教室や仕事の撮影用に使っている別のマンションのキッチン。
小さいですが、動線はこの方がスムーズです。

 松田さんは今のキッチンを、使いやすくはないと考えています。

「料理をするときに、右から左に動くのか、左から右に動くのかということをもう少し考えてあると良かったですね」

 向かって一番右にガステーブルがある松田さんのキッチンの場合、鍋やフライパンで調理したものを、左側のワークトップ(盛り付け台)で器に盛り、さらにその左にあるシンクに鍋を持っていって洗う、という流れになります。

 これは、右利きの人にとっては、自然な動きと逆になってしまい、違和感を覚えるでしょう。
 右利きが多い日本においては、多くの方にとって効率が悪くなります。

「施工当時は、マンションの台所を設計する際、あまり動線を意識しなかったのかもしれませんね。現在では、左右どちらに配置するかを選べる場合も多いです。キッチンのリフォームを検討している方は、実際に料理をするときにどういう動線になるか、よく考えて依頼すると良いと思います」

 排気用ダクトの取り回しなどもあり、外側の壁近くに熱源を持っていったのかもしれません。けれども、別の解決方法もあります。
 日々使うキッチンのレイアウトが、自分の動線とうまくフィットしていれば、それだけで、料理に対する心理的な負担も、実際に料理をする時間も短縮できますね。

「食洗機」があると便利

 松田さんは、導入しておけば良かったと思う設備があるといいます。

「当時はそこまで必要だと考えていなかったのですが、もっとも後悔しているのが食洗機。今のキッチンのスペースでは、据え置き型でも設置が難しいのです。動線は、ある程度慣れでカバーできます。しかし、食器を洗う手間は、慣れたらなくなるというものではありませんから」

 家族の分だけならたいしたことはない、と思いがちな洗いものですが、それを1日3回、毎日やる労力を考えると、食洗機は欠かせないといえます。

「仕事をしていると、忙しい1日の中で、洗いものをする時間は馬鹿になりません。それに、食器洗いを食洗機に任せてしまえば、食後の時間は家族との団らんに使えます。何もかも1人でするのは大変でしょう。時間をかけるべきところと、手間を省くところのバランスが大切だと思います」

 次回は、松田さんが愛用しているキッチンツールについて伺います。

≪お話を伺った方≫

松田真枝さん

北海道在住。昆布を愛するイタリア発の料理家。北海道で料理教室を開きながら、雑誌「dancyu」のWEBサイトで「昆布はどこへ行く。」、Webメディア「エシカルはおいしい!!」で「昆布のテロワールを訪ねて」などを連載している

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)

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