炊飯の極意を知って、極上ごはんを!「新米をガスで炊いてみませんか?」 第1回

昔の常識はいまの非常識

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新米はなぜ美味しいの?

「感覚的には晩秋、11月いっぱいが『新米』の季節だと言ってもいいでしょう。法律的には、12月31日までに精米、または袋詰めされたものを新米と呼んでも良いことになっています。でも秋のうちに、収穫したてのお米を楽しみたいですよね」と言うのは、コメ大王こと小野瀬多幸さん。米・食味鑑定士の資格も持っているお米のプロです。

「炊きたての新米はツヤツヤと光って美味しそうですよね。そのみずみずしさと、口の中に広がる香りの良さは新米ならではのものです。お米は『収穫してから12月くらいまで』『春先から5月くらいまで』『梅雨入り以降』と、3回食味が変わるんです。

 収穫直後のお米は、水分が多いから新鮮で美味しいのだと思われがちですが、じつは油分が多いのです。この油分が艶と旨みの素で、時間が経つにつれ抜けてしまうので、新米が美味しいと感じるんですね」

小野瀬多幸さん

 新米の時期は、お米屋さんも気を使います。

「収穫直後はお米の水分量も大きく変化します。状態がどんどん変わりますので、食味がぶれるんですね。ですから、細心の注意を払って最適な精米をしてお届けしているのです」

 上質のお米を毎年安定して作る農家のみなさんの努力を伝えるため、お米屋さんも真剣勝負。そんなお米の力を引き出すにはどんな炊き方をすればいいのでしょうか。

どうしてガスの火で炊くとお米は美味しくなるの?

 そんな美味しい新米、ほとんどの家庭では電気炊飯器で炊かれていると思います。とても性能が上がって、10万円を超えるハイエンドクラスの製品も人気だと言われます。けれど、ガスコンロの直火で炊けば、数千円の炊飯鍋・炊飯釜で十分なのです。

 ごはんを炊く調理法は「複合加熱」といいます。沸騰したお湯を対流させ、米粒を立たせる「煮る」工程。米粒の中に出来た微細な穴の中に蒸気を吸収させ、米粒を膨らませる「蒸す」工程。そして釜の底の温度が100度以上になり、過熱水蒸気がごはんの粒の表面の水分を飛ばす「焼く」という工程。その三つを連続して行うのが「炊飯」のメカニズムです。

 ガスやIHコンロは、電気炊飯器に比べて火力が強いので、沸騰までの時間が短くでき、しっかりした対流も起き、高温の水蒸気がお米の芯までしっかり火を通せるのです。こういう炊き方をすると、お米の中の澱粉がしっかり糊化します。これがお米の甘みや旨みになるのです。また、均一に火が入ることで、しっかりした食感になり、冷めても美味しいごはんになります。おにぎりやお弁当にもいいですね。

「直火は、鍋底から鍋肌まで、全体的に火を回してくれます。IHコンロも同じで、金属製の鍋全体を熱してくれますので、直火に負けない炊き上がりになります。特に最近のIHコンロは火力も強くなりました」

新米を炊くときに気をつけることは?

 新米が我が家にやってきました。炊く前に気をつけることはあるのでしょうか?

「昔から、新米を炊くときにはいろいろな『秘訣』があると言われてきました。けれど、その常識の中には、いまや非常識といってもいいことがいくつもあります。代表的な例を三つ挙げましょう」と小野瀬さん。

 ×新米の水加減は少なめに
 〇水の量は去年の米と同じで!

 かつては、新米は水分を多く含んでいるので、炊くときに水を減らすのが常識でした。けれど、現代のお米は、普段ごはんを炊くときと同じ量で大丈夫です。

 昔は、稲刈りをしてから「はさかけ」といって稲に米が付いたまま天日干しをしていました。稲から穂を取る「脱穀」はそのあとです。

「いまのコンバインは稲穂が立った状態で、穂だけを収穫し、すぐに乾燥機にかけます。天候に左右されず、勘に頼らなくてもいいので、品質が担保できるのです」

 収穫直後の稲穂の水分量は25%前後あり、20時間ほど経てば劣化・腐敗が始まってしまうのだそうです。それを乾燥機で14~15%にまで乾燥させることで、保存に適する状態にしているのです。

「ですから、新米だから水分が多い、ということはありません。炊くときの水を減らすと、新米特有のピカピカつやつやした炊きあがりになりません」

 ×新米は洗ったら米を研いだらすぐに炊くほうが美味しい
 〇新米もしっかり水に浸けましょう!

 新米は含まれている水分が多いので、米を洗った後にすぐ火にかけろ、あるいは炊飯器のスイッチを入れろと言われてきました。最近では、新米に限らず、洗ったらすぐに炊くという人もいます。けれど、「煮る、蒸す、焼く」の複合加熱である「ごはん炊き」は、きちんとお米に水を含ませた方が絶対に美味しく炊き上がるのです。

「新米が持っている植物特有の油分は水の吸収を妨げます。しっかり浸水をしてから炊き始めましょう。この油分が、新米特有のピカピカごはんになる理由のひとつです」

 ×柔らかい新米は炊きたての熱々をすぐにいただく
 ○適切な「ほぐし」で完璧に仕上げましょう!

新米の良さを引き出して、美味しくいただきましょう。

 新米の炊きたてごはんは光って見えます。そのままお茶碗によそって、今年できたお米のみずみずしさを味わいたいところです。しかし、「蓋を開けたらかならずよくほぐす」ということを守るとさらに美味しく食べられます。

 炊きたてのごはんは光っていると同時に、柔らかく見えて、水分が多かったかなと一瞬不安になります。それは単に見た目のことで、先に説明したように新米の油分のせい。上下にざっくりとしゃもじを使って、ごはんの粒が潰れないようによくほぐすことで、空気に触れたごはんはキュッとしまり、余計な水分が飛び、米粒がしっかりするのです。

「ほぐしは普段の炊飯でも、とても大切なことです。おにぎりにするときも、きちんとほぐしたお米だと粒だちがよく、食感もアップします」

 次回は、誰でも美味しくガスの直火でごはんを炊ける「10分-10分-10分」メソッドをご紹介します。

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RICHELLEは、料理をとことん楽しめるキッチンです。

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お話を伺った方

小野瀬多幸さん

通称「コメ大王」。米・食味鑑定士の資格を持つお米のプロ。店舗を持たず、ネット通販や出張販売で選び抜いたお米を売る。自前の精米機を持って店頭に立ち、その場で精米したてのおこめを対面販売することも。一年中、美味しいお米を求めて日本全国を駆け回る。

文・写真◎坂井淳一

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