健康寿命を延ばす「リフォーム」[第3回]

家事・生活の“しやすさ”にこだわる

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スムーズに家事ができる間取りを考える

 階段の上り下りはよい運動になると思いますが、毎日の家事は、短い動線でスムーズに動けるほうが便利ですよね。例えば洗濯機が1階にあって洗濯物を干すバルコニーが3階にある場合、もし膝を痛めたら重い洗濯物を持って3階まで上がるだけでもひと苦労です。やはり、将来的な体の衰えも考慮して家事動線を考えたほうがよいのでしょうか?

「究極にラクなのは、住まいの機能がすべて揃ったワンルームですね。年齢を重ねるほどに、階段で上下に移動しなくてはいけない戸建てよりもマンションなど、ワンフロアで用がすむつくりのほうが暮らしやすいと思います。

 ただ、リフォームで解決できることもたくさんあるのです。例えば、お話にあった洗濯機が1階で物干し場所が3階という場合、1階のお庭にスペースがあればそこにガーデンルームやサンルームを設置する方法もあります。そこを物干し場にすれば、階段の上り下りもなくなりますし、一年を通して雨の心配もなく洗濯物が干せます」

サンルーム・サニージュ
https://www.lixil.co.jp/lineup/gardenspace/sunnyge/

 どんな動線なら暮らしやすいのか、それを今の家で実現できる方法はないかを考えていくことが大事ですね。

家族の気配が感じられる家づくり

 将来的にいつ何が起きてもおかしくない年齢になることを考えたら、離れているときも家族の気配がなんとなく感じられる間取りにすることも必要かもしれません。

「家族の気配が感じられる家づくりは、高齢のご家族がいる方もですが、お子さんがいる方もよく気にされることです。個室にこもってしまうと何をしているか、どのような状態であるかがわかりにくくなってしまいます。ですから、例えば部屋を引き戸にして気配がわかるように常に少しだけでも開けっ放しにしておくのもよいと思います。冷暖房などの効率を考えると、開けっ放しでも部屋ごとの温度差が少なく省エネになる高気密・高断熱の家のほうが望ましいと思います」

高齢者は「見える収納」がおすすめ

石井さんがリフォームを担当したK様宅。造り付けの壁面収納を設けた。
扉に白を選んだことで圧迫感も感じない。

 高齢になったときの収納を考える際は、どういった点を注意したらよいのでしょう?

「年齢を重ねると背中や腰が曲がったり、腕を上げるのが辛くなったりと、体の可動範囲も徐々に縮まってきます。そうすると、どうしても上のほうに手が届かなくなったり、下の物を取るときに腰を曲げるのが辛くなったり、取り出しやすいゾーンが縮まってくるのです。脚立など台に乗って上の物を取るのも、転倒の危険があります。人の目線に近くちょうど取り出しやすい範囲のことを“ゴールデンゾーン”と呼びますが、まずはそのゴールデンゾーンによく使う物をわかりやすく収納することがポイントです。そして、その前にどうしても必要なのがモノを減らすことです」

 ただ、どうしても「もったいない」という意識が強い方はなかなか捨てられないですよね。

「“捨てる”という言葉に罪悪感がある方も多いようです。そのため私は片付けをサポートするときに“捨てる”とは言わずに“減らす”という言葉を使っています。そして、そこに時間をかけることが多いです。もちろん何もかもを減らすのではなく、思い出のある物はしっかり残してもらいます。ある程度モノを減らしておくと、リフォームで収納をつくるときにもとてもラクです」

 モノを減らした後、実際に具体的な収納場所を考えるときのコツなどはありますか?

「高齢になったときのことを考えると、見た目はそれほどこだわらないほうがよいと思います。例えば、収納の成功例として物を全部白いケースに入れているお宅をよく拝見しますが、年齢を重ねた場合は、見た目がきれいなことより、パッと見たとき中に何が入っているかが一目でわかるほうがよいのです。また、取り出すときのアクションも少ないほうがよいでしょう。例えば、扉を開けて、引き出しを開けて、その中のケースを開けて……というよりは、扉を開けただけでスッと取り出せたほうが便利です。

 ただ、来客が来たときに物が見えているのが恥ずかしいというのであれば、壁面収納にリフォームしてしまえば扉を閉めればすっきり見えます。また、リフォームが予算的に難しいのであれば棚を布やカーテンなどで隠すという方法もあります」

家事労働をラクにする
設備や家電を取り入れる

 最近は自動洗浄機能がある換気扇やバスタブ、トイレなどの設備や、お掃除ロボット、自動調理鍋など、年をとって体力や筋力が衰えたときにも便利な設備や家電も増えています。

「人によってはそれを頼ることで家事をさぼっているような気持ちになる方もいるようです。また、便利な家電を買っても置き場所がなくてしまいこんだまま使っていないという方もいます。だから、誰にでもおすすめはできないのですが、ラクをすることが悪いことではないですし、家事労働が減ることで自分の好きなことができる時間が増えるメリットもあります。ちょっと考え方を切り替えて、これからの生活を便利で楽しいものにするために、そういった設備や家電を取り入れることも検討してみてもよいと思います。ただ、実際どのくらいの頻度使うかはその人によります。なんでもすぐに取り入れず、まずは実際に使うのか、どこに置くかなどを検討されたほうがよいかと思います」

トイレは寝室の近くがベター

(写真◎Shutterstock)

 加齢とともに、夜間のトイレの回数が増えるというのはよく聞くことですが、やはりトイレは寝室の近くに設置したほうがよいのでしょうか?

「もし可能なら寝室のそばにトイレがあるほうが望ましいとは思います。例えば、寝室が2階でトイレが1階といった場合、夜中おぼつかない足取りで階段を下って転倒するといった心配もありますし、冬場はトイレに移動するだけで体が冷えてそのあと寝付けないといったこともあります。ただ、トイレを寝室の横に設置するために間取りを変更するとなると、かなり大がかりなリフォームが必要となります。予算的にリフォームが難しかったら、部屋の使い方を変えてもよいかもしれません。お子さんが独立されて部屋が余っている方も多いと思うので、臨機応変に部屋の使い方を変えてみるのもよいですね」

 最後に、これからリフォームを検討されている方へのアドバイスをお願いします。

「リフォームをする前に、現在の住まいで不便に思っていること、このまま変えたくないことをはっきりさせたほうがよいと思います。多少不便でも、その不便なことを続けていくことで健康や気力が維持できる場合もあります。ただ、家と外の温度差を穏やかにする断熱リフォームは健康へのメリットが大きいのでおすすめです。まずはこれからの暮らしで何を優先していくかをイメージしてみるとよいですね」

≪お話を伺った方≫

石井純子さん

インテリアコーディネーターとしてハウスメーカーに入社し、14年勤務。その後フリーランスとして活動。一般住宅のほか、店舗併用住宅、高齢者福祉施設にも多数関わる。快適で安心、ストレスの少ない住まいづくりを提案している。

文◎濱田麻美
タイトル画像◎Shutterstock

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