日本の住宅は犬を室内で飼うことは想定していない
猫は家、犬は外――。これは、日本で古くから当然のこととされてきた、ごく自然なスタイルでした。それが「愛玩系小型犬は家で飼うもの」という時代になり、室外で番をしていた犬も、ここ40年くらいの間で室内に居場所を移しました。そして柴犬ブームになった2004年ころから、日本犬も大型の洋犬も、室内で飼うことが一般化しました。
「しかし、日本の家は室内で犬を飼うことを想定してつくられていません。ですから、犬に心地よく過ごしてもらうには、従来の家の考え方を変えて設計する必要があるのです」
犬の鳴き声の対策は、連載第1回でも紹介した通り、外との情報を遮断することを念頭に置いて、遮音性の向上と、玄関と廊下の間に扉を設置して、来訪者と直接対峙しない緩衝地帯をつくると、高い効果を上げることができます。
特に大型犬を飼育するなら、床材も考慮したほうがいいと廣瀬さんは力説します。
「猫は裸足、犬は土足なんです。本来、外で暮らしてきましたので、通常の0.2mm程度の保護膜の建材では、すぐに床が傷んでしまうのです。私が設計するときは、店舗などで使用する土足対応の床材を使うように提案しています」
材料費は多少高くなりますが、耐久性は比較にならないほど高く、大型犬の爪でも傷が付きにくく、長持ちするといいます。
猫は裸足、犬は土足の生き物
柴犬ブーム以降、大型犬も日本犬も室内で飼われることが多くなった。
(画像提供=PIXTA)
大型犬の足といえば、散歩から帰ってきたとき、汚れが気になります。マンションの中には、足の洗い場を設けているところがあり、一戸建ての住宅でも玄関わきに水道を引き、洗い場をつくる人もいます。
「個人的な意見ですが、こうした洗い場は必要ないと思います。外で足を洗っても、玄関に入る前に汚れたり、玄関がびしょびしょになったりしますよね。それなら、玄関に入ってから、濡れたタオルで足を拭いてあげればいい。冬場、冷たい水をかけるのもかわいそうです」
それに、「そもそも室内の掃除をしっかりすることも大事」と、廣瀬さん。
飼い主の許容範囲の問題ですが、犬をキッチンや寝室に入れたくないのなら、「家の中には立ち入り禁止エリアがある」と覚えさせるのも共生するコツだと廣瀬さんは言います。
トイレを廊下に置いてはいけない理由
室内で犬を飼う場合、トイレに関しては、その失敗やにおいの点で頭を悩ませることでしょう。散歩の途中で排尿排便することがあっても、公衆マナーを考えたり、シニア犬になったときに備えたりして、現在は家の中でトイレをさせるほうが多くなっています。
「ペットのために、室内に専用のハウスを設けたり、居場所や遊び場を工夫している方が増えてきました。でも、なぜかトイレは廊下に無造作に置いている家が多いようです。住居内の美観を保ち、衛生管理もしっかりしたいのであれば、トイレを廊下や流しの下に仮置きするのではなく、専用のトイレを設置するべきです」
廣瀬さんのオフィスには、ビルド・イン・トイレがあり、愛犬のジャックラッセルテリアも愛犬も使用していますが、行き届いた掃除と専用換気扇+臭い取りシートで、ペット特有のにおいはまったくありません。
廣瀬さんの事務所の犬専用のトイレ。どこにあるかわかりますか?(画面中央下の「シンク」のようなものがトイレです)
「寿命が20年になるペット暮らすことは、子育てと変わらないと思います。小さな子供部屋をつくる感覚で、トイレを含む居場所を設けることです。そうすることで、犬が喜び、飼い主も快適に過ごせる住空間ができあがるのです」
しかし専用トイレをつくっても、犬にちゃんと覚えてもらえるものなのでしょうか。
「犬の場合、号令でトイレをさせることもできます。トイレを使わせてうまくいったらご褒美をあげる。これを繰り返すことで、トイレの習慣を定着させることができます。場所を決めて固定したほうが、犬としても、トイレを使いやすくなります」
遊びながらトイレ習慣。なんだか、小さな子供がおむつから卒業するパンツトレーニングにも似た、ペットと暮らす楽しみが増えるかもしれません。
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