家を“楽しい都市”にしてあげる工夫
連載の第1回で、猫を外に出さないように、リビングと玄関の間にもう1枚の扉をつくり、緩衝地帯を設けることや、外が大好きな猫のために窓を多くつくるといいことをご紹介しました。
ペットショップで買ってきた猫を除けば、もともと野良だった猫が多いわけですが、その子たちには元のテリトリーを捨ててもらい、「室内こそが自分の世界」「外よりもずっと快適である」と感じてもらうことが大切なのです。
猫は部屋全体を見下ろせる場所を計画的につくってあげると喜ぶ
「本来、猫は高いところに上ります。そこからテリトリーの変化を確かめるためです。探求心が強い生き物なので、家の中にあたかも“街路”をつくり、楽しい都市のようにしてあげることがポイントです」
猫にとって楽しい都市とは、どのような空間なのでしょうか。
「部屋全体を見下ろせる場所をつくることです。たとえ30坪の家でも、そこが猫のテリトリーであり、都市そのものなのです。テリトリー全体を見下ろせる場所を計画的につくってあげましょう」
キャットウォーク5つの基本
廣瀬さんの事務所に設けられたキャットウォーク。
ありがちなのが、猫が喜ぶだろうとおもちゃを置いたり、キャットウォークを設置してしまうこと。安直に、狩りの本能を刺激したり、高いところをつくってあげればいいというものではないそうです。キャットウォークをつくるなら、猫の動線を計算しなくてはなりません。
「キャットウォークをデザインするには猫の習性を理解して、行動に合致させます。猫が喜ぶキャットウォークには、5つの基本的ルールがあります」
1. 部屋のそこにキャットウォークがある必然性
2. 一方通行や行き止まりはNG
3. 清潔が保てるように拭き掃除ができる
4. 猫が歩いている姿を飼い主が楽しめる
5. 多頭飼いでも、猫同士がすれ違える幅がある
以上の5つが設計の基本中の基本。興味の沸く景色が見えるかどうか、複数の猫の動線が確保されているかどうか、いつもきれいできるかどうか、何よりかわいい猫の生態を飼い主が楽しめ、複数の猫を飼ったとき、ケンカしないで過ごせる環境づくりが必要だというのです。
実際、環境を整えると、ケンカするどころか、猫同士がキャットウォークの動線を譲り合うようになるそうです。
猫は家に付く生き物だから、繊細な計画を
爪とぎ用の柱(写真左奥)。
新しい家が傷ついたり、においがついたりするのは、いくらかわいい猫の行動でも、何とかしたいと思うものです。
「爪とぎという猫の習性は何とも厄介です。彼らは柔らかく、弱い材質を見逃しません。例えばドアの枠とか。ですから、爪とぎ用の場所を設けてあげる必要があります。多くの飼い主は市販の爪とぎ器を用意しますが、すぐに飽きて本物のドア枠や柱などが狙われます」
廣瀬さんがおすすめするのが8mmのサイザル麻のロープを柱にぐるぐる巻いて、猫に爪とぎをさせる方法です。このロープを巻いた柱とキャットウォークと組み合わせれば、飼い主が何もしなくても、猫本来の習性を垣間見ることができます。そのかわいい姿に、「猫と暮らしてよかった」と思えることでしょう。
猫専用のトイレスペース。L字型エプロンのおかげで砂が外に出にくい。
猫砂だけでなく、落ちた体毛はお掃除ロボットにお任せ。置き場にもひと工夫。
犬同様、室内で猫を飼う以上、トイレのにおいは大きな問題点です。廊下や流しの下に市販のトイレを適当に置くだけでなく、家の設計段階から専用のスペースを考えるべきだと、廣瀬さんは提案します。
「におい対策の上でも、換気扇を設置し、トイレ用の砂はたっぷりあったほうがいいのです。ただ、猫はフンをした後に、前足で砂をカリカリして隠す習性があります。だから、どうしてもトイレの外に砂が飛び散ります。
そこで、私が設計する場合は、常設のトイレを置く場所のまわりに“L字型”エプロンをつくり、そこに市販のトイレを置けるようにします。そうすることで、砂の飛び散り方が格段に少なくなります。猫砂も紙製のものが売られおり、掃除しやすく、それをおすすめしています」
紙のメリットは、掃除機できれいにできるところ。飼い主が家を空けることが多い場合は、お掃除ロボットに活躍してもらうのがいいでしょう。ただ、猫はこのお掃除ロボットもおもちゃにしてしまうことがあります。
「私は台の下に充電器を配し、猫がいたずらしないようにしています。その台の上にグリーンでも置けば、ちょっとしたインテリアにもなります。室内を清潔に保つことで、ペットはもちろん、飼い主の住環境にも大きく役立ちます」
「猫は家につく」(犬は人につく)といわれていますが、猫を飼ってみると、このことが理解できるはずです。だからこそ、猫が喜ぶ家づくりは、犬以上に繊細で確かな計画が必要なのかもしれません。でも、これが狙い通りにできたとき、ペットも飼い主も喜べる素敵な家になることは間違いありません。
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