狭小住宅を成功させる秘訣[第1回]

狭小住宅のメリット・デメリット

空間
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建築悩み事例

メリット1:都市部でも家を建てやすい

 都市部は通勤や通学が便利で、周辺施設も充実しています。おしゃれなカフェが点在する繁華街や、映画館や美術館などの文化施設や娯楽施設に気軽にアクセスできるなど、都会ならではの生活が楽しめるのも魅力です。一方で、都市部で住宅用に広い土地を探すのは年々難しくなっています。

「便利な都市部であるほど一坪あたりの価格が高騰しており、土地の取得だけでも膨大な資金が必要です。予算内で家を建てるには敷地面積が限られるケースも多いでしょう。また、周辺に建物が密集して近隣と近い、採光がとりにくいなど、条件が厳しい場合も多いと思います。そんな限られた条件の土地でも、工夫しだいで住みやすい家がつくれます。私たち建築士にとっては、厳しい条件だからこそ挑戦しがいがあるといってもよいでしょう」

メリット2:空間をフレキシブルに使える

 狭小住宅は限られたスペースに心地よい居住空間をつくり出すために、通常の住宅設計とは異なるアプローチを行っているケースが多いそうです。

「通常の住宅では、玄関があって、廊下、LDK、階段があってとそれぞれの空間が仕切られていることが多いと思いますが、狭小住宅の場合、空間を広々見せるためには細かく仕切らないことが大前提になります。私の設計する家は、基本的に部屋を仕切る壁のない、大きな木の箱のような状態で建てます。構造が非常にシンプルなので、空間を自由自在に使えるのです。空間を仕切りたいときは、引き戸や棚などで仕切ることができます」

メリット3:税金面でもメリットがある

(C)Shutterstock

 狭小住宅は狭いからこそ税金面でメリットが生まれます。固定資産税と都市計画税などの税金負担を抑えられるのです。

 これらの税金は、土地や建物の評価額に基づいて計算され、土地の広さによって減額されることがあります。「小規模住宅用地」と呼ばれる200平方メートル以下の土地は、税金面で優遇されています。

 将来的には相続税にも関わってくるため、長期的な目で見ても税金面での負担はラクになるケースが多いといえるでしょう。

 

デメリット1:間取りが縦に長く上下移動が大変

 狭小住宅では限られた土地に家を建てるため、3階建てというケースも多いと思います。そしてその場合、空間縦に長くなるのでどうしても上下の移動が多くなります。

「狭小住宅の場合、空間が縦に広がるのは避けられないでしょう。それでも、移動の問題は工夫しだいで解決できます。例えば空間の間にスキップフロアのような形で中間のフロアをつくれば、上下の移動が緩やかになりつつも段差そのものが区切りとしての機能を担ってくれます。また、水回りを一箇所にまとめるなど生活の動線を考えて設計することで、日常の家事をワンフロアで済ませられるようにすれば、洗濯機を回しながら料理をするときでも上の階と下の階を行ったり来たりせずに済みます」

デメリット2:近隣と近すぎる

 狭小住宅の場合、密接した住宅地に家を建てるケースも多く、近隣と近すぎるための問題が生まれてくることも多いです。

「向かい合わせの窓、音の問題など、近隣と近すぎるために生まれる様々な問題を解決することは、建築家の使命だと思っています。私の設計する住宅では、南側に大きな窓を設けることができて採光が十分得られるのであれば、家の側面には窓を設けません。
 ただ、敷地の形や家の構造的に、側面にも窓を設けたほうがよい場合は、近隣の窓との位置関係に配慮するようにしています。それだけでも隣同士でお互いの家の中が丸見えになる、音が入ってきてうるさいなどの問題は避けられます」

 第2回は、狭い空間でも広々と見せるためのコツについて考えていきます。

(第2回に続く)

≪お話を伺った方≫

葛西 潔さん

東京都生まれ。1982年 葛西潔建築設計事務所設立。
狭小住宅でも、採光・通気性を確保できる十分な開口と、木構造の必要とする耐震性の両方を叶えるために「木箱212構法」を開発。家族の生活の可能性を限定しない空間を提案している。

文◎濱田麻美
写真提供◎葛西潔建築設計事務所

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