狭小住宅を成功させる秘訣[第2回]

狭い空間を広々と見せるテクニック

空間
リビング・寝室・居室
関心
建築悩み事例

暮らしの中でなにを大事にするのか

 葛西さんは、狭小住宅を建てる際にまず考えるべきは、暮らしの中でなにを大事にするのか、その優先順位をはっきりさせることだといいます。

「広い土地に家を建てる場合は、予算さえあれば、施主さんの希望の多くを叶えることができます。しかし、土地が狭く条件が厳しい場合は、希望に優先順位をつけて取捨選択をしていただかなくてはいけません。
 そのため私は、施主さんにまずはどんな暮らしをしたいのかをお伺いします。例えば家族みんなで食事をする時間を大事にしたいのであれば、日当たりのよい真南の吹き抜けダイニングにします。まずは一日の中で長く過ごすLDKのようなメインの空間を魅力的で快適な場所にすることを考えるのです。その一方で、子供部屋が狭い、収納が使いにくいなど、細かいマイナス点はある程度妥協していただくこともあります」

 こうして建てたい家の要素を取捨選択していく過程で施主さんも今までの生活をふり返り、これからの生活を真剣に考えることになります。そしてそれが価値観を変えるきっかけにもなることもあるそうです。建築士とのディスカッションの中から、新しい暮らしのスタイルが見えてくるのです。

「住みやすい家」は時間とともに変わっていく

 同じ家に長く住んでいる間に、子供が独立したり、両親を迎え入れたりと、家族の年齢もメンバーも変わっていきます。それを考慮しておくことも大切です。

「第1回でもお話ししましたが、私の建てる家には壁や柱がありません。大きな木箱のようなつくりなのです。そのため、寝室や子供部屋などを仕切りたいときは、引き戸などを使って仕切ります。
 こうしたつくりは、空間を自由に使うことができます。例えば子供が独立したら子供部屋の仕切りをとり払って隣の部屋と合わせた広い空間にしたり、部屋の一部を書斎にしたり、いろいろな使い方ができるのです。構造がシンプルなのでリフォームも比較的簡単です。
 限定的な空間をつくらないことで、用途の変更もしやすくなります。家族のスタイルに合わせて住まいも変えていけるのです」

目線を止めない

 実は空間を広く感じさせるには、あるテクニックがあるそうです。

「人間の目線が止まらないようにすることです。壁があると人の目の動きはそこで止まってしまいます。目線が止まらないようなつくりにすると、狭さを感じないのです。そのため、私の設計する家にはほとんど垂れ壁がありません。ちょっとした垂れ壁があるだけで人間はそこまでが部屋だと無意識のうちに認識し、閉塞感を感じてしまうのです。
 階段も柵がスケルトンの螺旋階段にすることで、仕切られた空間にしないようにしています。例えば部屋の中心に階段があっても、目線を遮らないので広さを感じられるのです」

仕切らないことで風通しもよくなる

 壁や柱が少ない構造にすることは、風通しや換気をよくするためにも大切です。

「狭い空間を細かく仕切れば、空気の流れは止まってしまいます。内部に柱や壁がなければ、自然と空気は流れて風通しもよくなるのです。狭い住宅ほど風通しをよくするのは難しいので、できるだけ空間を仕切らずシンプルな構造にすることが必要です」

光のとり方に工夫する

 狭小住宅は隣の家と窓が近すぎて、採光にも工夫が必要です。狭小住宅で十分な採光を確保するにはどのような方法があるのでしょうか。

「第1回でもお話ししましたが、私の設計する住宅では南側に大きな窓を設けることが多く、採光はそれだけで十分というケースも多いです。南の窓は真夏ほど太陽が高い位置になり、直射日光が入ってきにくいので暑くなりにくいというメリットがあります。これが東や西の窓の場合、太陽光が斜めに差し込むので部屋に直射日光が入ってきます。
 南に窓が設けられないときは、天窓や壁の高い位置に開口部を設けて光をとり入れる場合もあります。高い位置から降り注ぐ光は強いので開口部がそれほど大きくなくても部屋は明るくなります」

 こうした様々なテクニックが使われているから、条件が厳しい中でも快適な住まいができ上がるのですね。

 第3回は、狭小住宅で生まれがちな収納問題の解決法を考えていきます。

(第3回に続く)

≪お話を伺った方≫

葛西 潔さん

東京都生まれ。1982年 葛西潔建築設計事務所設立。
狭小住宅でも、採光・通気性を確保できる十分な開口と、木構造の必要とする耐震性の両方を叶えるために「木箱212構法」を開発。家族の生活の可能性を限定しない空間を提案している。

文◎濱田麻美
写真提供◎葛西潔建築設計事務所

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