刺激の多い世の中を、心地よく生きる基礎知識[第1回]

春にご用心! ウキウキもストレスの源!?

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メンタルケアが必要な人は数多い!?

 まず「メンタルケア」とはどのようなものなのか、山岡先生にうかがいました。

「『メンタルケア』と『メンタルヘルスケア』は同義語で、メンタルヘルス(心の健康状態)の不調に対応することです。メンタルヘルスの不調は以下のように定義されています」

“精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう”(引用:労働者の心の健康の保持増進のための指針 厚生労働省)

 メンタルケアの対象は幅広いようです。

「メンタルケアはうつ病などの精神疾患だけに対して行われるものではありません。ストレスそのものや強い悩み、苦しみ、社会生活や心身に影響のある心の問題のすべてを対象に行われます。したがってメンタルケアを受ける人全員が病気というわけではないのです」

 心の病気を患う人をはじめ、その予備軍ともいえる人も対象になっているのですね。
 また、メンタルケアといっても、さまざまな方法があるのだとか。

「メンタルケアという言葉でイメージされるのは、病院の精神科などでカウンセリングを受けることでしょう。ただ、それだけではなく、ストレスを自己管理(セルフメンタルケア)したり、管理監督者が職場のストレス要因を把握して改善したりと、さまざまな方法があります」

ストレスは「心」「体」両方に影響する

 ストレスでうつ病や統合失調症などの精神疾患を患う話はよく聞きます。その影響は「心」だけでなく、「体」に及ぶ場合も多いのだそうです。

「ストレスがかかりすぎると、呼吸器や消化器系などをはじめとした、体全体の機能に異常が発生します。このように、ストレスの影響で機能的な障害を伴った疾患群を、総じて『心身症』と呼んでいます。心身症は『ストレス関連疾患』ともいわれ、対症療法だけでは回復は困難です」

 原因がストレスにあるので、患部を治療しても効き目がないのは厄介です。
 注意しなければならないのは、ストレスはマイナスの出来事だけでなく、プラスの出来事からも受けてしまうこと。

「ストレスとは、周りから受けた刺激に対して、緊張状態になることです。人間は良いことも悪いことも刺激としてとらえてしまうため、どちらもストレスになり得るわけです」

新生活シーズン&コロナ禍で不安が増大

 この刺激が多いのが、異動や進級の季節である3月から4月にかけて。
 新生活を迎えた人は、職場や学校で新しい環境に身を置くことで、強いストレスとなる可能性があるのだそうです。

「新生活が始まると、今までとは生活リズムが変わり、それが原因でストレスを受けてしまいます。転勤や進学、引っ越しなどは、特段マイナス要素には感じられないでしょうが、先述のとおり、刺激を受けてストレスを感じる可能性が高いのです。変化が多いほど、負担は大きくなるでしょう」

 新生活からしばらくして、気の抜けたタイミングで心身に影響が出ることもしばしばあるそうです。「五月病」はこの一種だとか。

「コロナ禍の現在は、漠然とした不安を覚えている人も多くいらっしゃいます。常にストレスがかかっている状態ともいえます。外出自粛も大きなストレスとなっているのではないでしょうか」

 新生活による環境変化とコロナ禍の影響を考えると、今年の新生活シーズンは特に自身の精神、体調が崩れていないか、注意しておく必要があるでしょう。

 また、感染に対する不安が強く、手洗いなどの清潔にする行為を常に強いられることで「強迫性障害」を発症しやすくなっていると、山岡先生は言います。

「強迫性障害は、強迫観念にとらわれ、そこから生まれた不安を振り払おうと、何度も同じ行動を繰り返してしまう病気です」

 たとえば、出かける際に戸締りを異様に気にして何度も戻って確認したり、手が不潔だと何度も洗ってしまったりといった症状が当てはまります。

「問題なのは、現在は社会全体に強迫性障害の傾向があるというところです。新型コロナウイルスの影響で、手洗いやうがいをする、マスクをするなどの行為が強迫観念になっている可能性があります。絶対にやらなければならないと感じ、やらない人はダメといった、攻撃的な面が出てきてしまっているのです」

 確かに、マスクの着脱をめぐるトラブルは社会問題となっています。
 こうしたことからも、現代人全体にストレス傾向が高まっていることを実感します。

「状況を打破するためにも、ストレスをそのままにしてはいけません。放置すると、心身症や精神疾患を患う可能性が高くなってしまうのです」

 ストレスの原因をすぐ解決することは難しい場合も多いでしょう。ただし、少なくともストレスを放置せず、受けている刺激を見極めることが必要だといえますね。

 次回はストレスの種類と向き合い方について、山岡先生にお話をうかがいます。

■お話を伺った方

山岡昌之さん

医学博士・心療内科医・心療内科専門医。日本摂食障害治療研究所所長、認定NPO法人日本心療内科学会副理事長、一般社団法人日本摂食障害協会副理事長、公益財団法人医療科学研究所評議員などを務める。著書に『ストレスの科学と健康』(朝倉書店)、『拒食と過食は治せる』『仮面うつ病』(以上、講談社)、『人はなぜ「いじめ」るのか』(シービーアール)、監修書に『働く人の新メンタルヘルス—心の健康[最新アプローチと職場復帰支援]』(社会保険出版社)、『心療内科医が教える 家庭でできるセルフメンタルケア』(徳間書店)など。

文◎熨斗秀信
写真提供◎Shutterstock

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