
防犯対策専門家の京師美佳さんから、住まいを窃盗などの犯罪から守るための術について詳しく話をうかがうこのシリーズ。今回は、最近急増中の自動車盗難の手口やその防止策、「手を替え品を替え」で被害が続出している詐欺系犯罪の動向と対処法などについて詳しく紹介します。
住まいに関する防犯対策では、マイカーの駐車場にも注意を払う必要があります。たとえばマイカーで遠出する際には、次のような手を打っておいたほうが無難だと京師さんはアドバイスします。
「マイカーを駐車場から出した後、そのままガランとした空間スペースにしておくと、留守にしていることをアピールしているようなものです。そこで、自転車を駐車場の真ん中付近に斜めに停めて目立たせておくなどして、長く外出していることを悟られにくくするとよいでしょう」
さらに、自宅の駐車場に停車中のマイカーが盗まれることも警戒したほうがよさそうです。
最近になって、リレーアタックと呼ばれる新手の手口の自動車盗難が増えています。
防犯に強いとされるキーレスシステムのクルマだと、ついつい気が緩んでしまうもの。手軽で有効な対策としては、スマートキーを玄関付近に置かないこと。
「リレーアタックとは、スマートキーを装備した自動車をターゲットとした手口で、多くの人が玄関付近に保管していることに着目した犯行です。犯人の一人が玄関付近で特殊な専用機器を用い、スマートキーから常に発信されている微弱な電波を受信して、それを中継(リレー)します。そして、自動車の脇で待機していたもう一人の犯人が中継された電波を受信し、ドアロックを解除してエンジンを始動させるというものです」
では、こうした犯罪を防ぐにはどうすればいいのでしょうか? 最も単純明快な対策は、玄関付近にスマートキーを置かないというものです。
もっとも、それでは不便に感じる人も少なくないでしょうし、長年にわたって自動車のキーを玄関付近で保管してきた人はその習慣がすっかり身についているはず。むやみに別の場所に移すと、探し回るハメになるかもしれません。
「どうしても玄関付近で保管したい場合は、電波をシャットアウトする素材でできたポーチがあるので、その中に入れておくようにするといいでしょう」
また、クッキー缶などのブリキ製の缶も電波を遮断する効果があるとか。スマートキーを入れてフタを閉めたブリキ缶を携えながらマイカーのドアノブを引っ張り、それで開かなければ電波が遮断されている証しです。
リレーアタックとともに増えている犯罪に、アポ電強盗と呼ばれるものがあります。住まいが舞台となる犯罪ですし、非常に手口が悪質であるだけに、こちらにも注意が求められてきそうです。
アポ電強盗とは、まずは家族を装って電話をかけ、その家で金銭をどれくらい保管しているのかを言葉巧みに聞き出したうえで押し入り、凶器を振りかざしたり、暴力を振るったりして強奪していくという犯罪です。2019年の2月には、金銭だけでなく命まで奪われてしまうという痛ましい事件も発生しています。
アポ電強盗の犯行グループは振り込め詐欺からの転身組のようなので、まずは話に付き合わず電話を切ったり、留守番電話で対応するのが基本だと京師さんはアドバスする。
「もともと振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺に関わっていた犯人たちが、取り締まりの強化に伴って、アポ電強盗へと転身していったようです。最初に電話をかけて被害者をだます手口は、振り込め詐欺と同じ。話を続けていると犯人のペースに巻き込まれていきますから、とにかく『折り返す』などと言って、いったん電話を切ることです」
ただ、「こちらから電話をかけ直すね」と言っても言葉巧みに交わしながら、話を聞き出そうと食い下がるパターンもあります。
そのような事態に備えて、あらかじめ家族間で取り決めておくといいものがあるとか。
「それは、家族しか知らない合言葉です。もしも家族を名乗る人間から電話がかかってきて、現金のありかなどを尋ねてきたら、とにかく『合言葉は?』と聞き返してみましょう。本当に家族からかかってきた電話なら、相手はちゃんと即答できるはずです。言葉に詰まれば、間違いなくアポ電強盗などの特殊詐欺ですから、さっさと切ってしまいましょう」
また、非通知や見ず知らずの番号からの着信は留守電で対応するのも基本です。
一方、安全確実で有利に増やせる資産運用の勧誘を行う詐欺も横行していますが、こちらも話せば話すほど相手の術中にはまりかねません。
「絶対に大丈夫! 絶対に儲かる!」と言われたら100%詐欺であることが確定するので、こうした言葉は出た時点で聞く耳を一切持たないのが賢明だと京師さんは忠告します。
非通知でかかってくるような電話は怪しいと思うこと。万一、電話に出てしまって会話をしても、お金の話が出たらそれは詐欺と判断すること。
戸締りしないことで地域のコミュニケーションをとるようなケースでは住民が一体となって相互に防犯に気を配り合うのが最善策。
ここまで見てきたように、特に都市部では、さまざまな方面に対して警戒感を強めざるをえないご時世となっています。
その点、隣近所との関係が親密で、見知らぬ人がウロウロしているとすぐに目立ってしまうようなローカル社会では、そこまでピリピリする必要がなさそうです。
とはいえ、特殊詐欺は地方の資産家にも狙いをつけているでしょうから、油断は禁物だと言えます。加えて、隣近所が親密であることが防犯上は災いとなるケースも出てくるそうです。
「隣近所の人たちが勝手に出入りするのが当たり前になっていて、カギをかけると人間関係が気まずくなるようなケースが、地方の過疎地で見受けられます。つまり、戸締りしないことが習慣となっているわけで、そのような状況に目をつけて、白昼に堂々と玄関から侵入する窃盗犯もいます。空き巣ではなく、言わば“居る巣”で、何も知らずに戻ってきて犯人と鉢合わせしまうような恐ろしい事態も発生しているのです」
かといって、急に戸締まりを心掛けるようになると周囲との関係がギクシャクしかねません。その地域の住民が一体となって相互に防犯に気を配り合うのが最善策のようです。
さて、ここまで様々な角度から防災について考えてきましたが、すべてにおいて共通しているのは、自ら積極的に犯罪への対策を進めることが求められているということでしょう。第3回でも触れたように、警備会社と契約を結んでも、期待できるのは「被害を最小限に抑えること」で、犯罪を未然に防げるかどうかは日頃の自助努力次第です。
防犯に関しては、楽観的思考よりも悲観的思考のほうがプラスに働くとも言えるでしょう。
月並みだが、備えあれば憂いなし。防犯対策を考えるうえでは、「ひょっとしたら○○かも?」という発想の“かもしれない行動”が大切だと京師さんは説く。
「怖いのは、『わが家はきっと大丈夫』という油断です。たとえばお風呂やトイレの窓も侵入口として狙われる一つですが、金属製の格子が入っているから大丈夫だと思っていませんか?
実は頑丈そうに見えても、それらの多くはバールなどで容易に取り外せてしまいます。防犯対策を考えるうえでは、『ひょっとしたら○○かも?』という発想の“かもしれない行動”が功を奏しがちです」
最後に、京師さんはこうアドバイスします。
「すでにお話ししたように、100円ショップなどで手に入る安価なグッズが役に立つシーンもありますが、より高性能のものを求めるなら、CP(Climb Prevention=防犯)と書かれたステッカーが貼られている製品を選ぶといいでしょう。このステッカーは、5分間の侵入行為に耐えられることを警察庁、国土交通省、経済産業省が認定した防犯建物部品だけに貼られているものです」
月並みではありますが、ことに防犯においては、まさには“備えあれば憂いなし”です。
[了]
百貨店のエレベーターガール、セキュリティ企業、防犯ガラスメーカーをなど経て、2005年に独立。京師美佳セキュア・アーキテクトを設立し、防犯対策専門家として防犯アドバイザーとして、マンションや戸建ての防犯のプロデュースや設計、防犯診断、防犯の施工などを行う。4000件を超える相談や診断、企業のセキュリティ商品などの企画・販売戦略のアドバイスを行う一方、テレビ・新聞・雑誌などメディアで防犯の専門家としてコメンテーターとして活躍。全国で防犯の講演を行うなど防犯の啓蒙活動を展開している。一般社団法人全国住宅防犯設備技術適正評価監視機構理事
文◎大西洋平 人物写真◎平野晋子