ノラ猫・チーとウーとの出会い
京王井の頭線高井戸駅から徒歩10分ほどの閑静な住宅地に、猫専用アパートメント「Gatos Apartment」はあります。
木津さん一家の居住スペースは2階部分。玄関から廊下を抜けると、自然光が気持ちよく降り注ぐ、吹き抜けのあるリビングが目に飛び込んできます。
「このアパートは自宅であり、私が最初に手掛けた、猫と住む賃貸住宅でもあります。現在、1階には2世帯の方が猫たちと暮らしているんです」
もともと木津さんがこの家を建てたのは、あるノラ猫との出会いがきっかけだったそうです。
「当時、私は妻と一緒に、2階建てのテラスハウスを借りて住んでいました。その物件はペット不可だったのですが、前の住人によって餌づけされていたノラ猫が、ときどき遊びにきていたのです。私たちはその可愛さに心を奪われて、チーと名前を付けました」
ある日、チーが子猫を連れてきたそうです。木津さんはその日を、昨日のことのように覚えているといいます。
「小さな子猫は両目とも目ヤニで覆われて、目が見えない状態でした。餌も食べていないようで、とても弱っていて……。チーはこの子をなんとかしてほしいと、私たちのところにきたのだと思いました。私たちは急いで動物病院に連れていき、処置をしてもらったのです」
チーがウーを連れてきた頃。体が小さくてまだ弱々しい。
チーが出産した3匹の子猫。現在は里親に出して、チーとウーの2匹を飼っている。
2度の手術で子猫は目が見えるようになって、木津さんたちはウーという名前を付けました。
その後、さらに思ってもみなかったことに、チーが子猫を3匹も出産していたのです。
猫と住める部屋がない!
チーとウーに、3匹の子猫……。一緒に暮らしたいけれど、ペット不可の家で5匹の猫を匿うわけにもいきません。
木津さん夫妻は引っ越しを決意し、急いで物件を探し始めます。
すっかり大きくなったウーは、人懐っこい性格。
「いろいろとリサーチをしてみて、愕然としました。当時はまだ、ペット可の物件自体がとても少ないのに、そのほとんどは対象が犬というものばかり。また、猫を飼えたとしても、1匹だけという制限が多く、複数の猫と住める賃貸住宅は、ほとんどありませんでした」
こうした経験から、猫を、特に多頭飼いしているような人が借りられる部屋が、圧倒的に足りていないことに気付いたのです。
「最終的に行き着いたのは『自分たちで家を建ててしまおう』という結論でした。資金面なども悩んだ末に、猫と快適に住めるアパートをつくることにしたのです」
たしかに集合住宅であれば、自分たちが住むと同時に家賃収入も得られます。
何より木津さん夫妻以外にも、猫を複数飼いたいのに部屋がなくて困っている人たちに、場所を提供することができるでしょう。
責任をもって世話するということ
次回は、さまざまな工夫がある木津さんのお宅をご紹介。
アパートをつくろうと決めてから、木津さんは猫と暮らすためにどんな設備や構造が必要なのかを、真剣に考え始めたといいます。
「もともと私の実家では、猫を屋外で放し飼いにしていたので、それが当たり前だと思っていました。ただ、愛玩動物飼養管理士の2級を取得し、本気で猫のことを学び始めたときに、猫の殺処分問題についても真剣に考えるようになったのです」
猫は繁殖力が高い生き物です。
避妊手術をしないで、屋外でただ無責任に世話をしていると、知らぬ間に子猫が生まれてしまうこともあるかもしれません。
「生まれた子猫を飼うことができず、引き取り手も見つからなければ、殺処分の対象になってしまいます。人間が責任をもって飼育することの必要性について、深く考えさせられました」
そんな経緯もあって、現在、木津さんが手掛ける猫向け賃貸住宅の募集は、室内飼いをすることが必須条件。そして屋内でも猫たちがストレスをためず、人間も一緒に、快適な生活ができるよう、さまざまな工夫をしています。
第2回は、そんな木津さんが手掛けた最初の猫専用の賃貸住宅「Gatos Apartment」に込められた工夫について、詳しくご紹介します。
(第2回に続く)
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