
川名さんがリビング・ダイニングのDIYリノベをしたのは、奥さんが里帰り出産をしていた6年前のこと。「手作りした家で不便や不自由を感じることはないのか」「実際の住み心地や暮らしぶりはどうなっているのか」など、気になる方も多いと思います。そこで、リノベ後の生活で実感したDIYのメリットとデメリットについて、詳しくうかがいました。
まずは、暮らし始めてみて「もっと、こうした方がよかったかなぁ」と感じているところから。
「いちばん感じているのは照明プランニングです。自分で施工した箇所ではないのですが、それだけに、自分の希望を練り込んで電気工事士さんにお伝えしておけばよかったと感じています。
今はスイッチを押すと、部屋全体の明かりが点灯します。でも、『夕飯を食べる時はテーブルの上だけ』といったように、生活リズムやシーンに合わせて演出できるようにしたかったですね」
照明の工事には電気工事士の資格が必要なため、自分だけではやり直せません。
DIYに限らず、リフォームをするときは、自分のライフスタイルを顧みて「いつ、どこを照らしたいか」と、シミュレーションしておくとよさそうですね。
ほかにも、「満足している反面、もっと勉強しておけばよかった」と思うところがあるそうです。
例えば、第2回で紹介した「梁を見せる天井」。
川名さんはこう振り返ります。
「天井板がなくなったぶん断熱効果が薄れ、夏の熱気や冬の冷気が入りやすい部屋になってしまいました。それに空間が広くなったせいか、冷暖房の効率も悪くなったように感じます。防音効果も下がったので、上階の足音が気になるときもあります」
川名さんは、これら天井板を抜くことのデメリットは事前に調べて知っていたそうですが、
「実際に暮らしてみないとわからないことがたくさんあると気づきました。でも、改善点がわかれば、自ら補修できるのがDIYのよさです」と、あくまでも前向きです。
「住んでみないと不便に気づかない」という問題は、DIYリノベに限らず、業者に依頼してのリフォームや新築住宅にも言えることでしょう。また住む人のライフスタイルの変化によってもニーズは変わってきます。
川名さんのお話をうかがっているうちに、「すべての住まい手はDIYのスキルを習得するべきではないか」と思うようになってきました。
「そもそも、ずっと100%満足する住宅に住み続けられる人は、めったにいないのだから、DIYの経験を蓄積し、気になった箇所を、気になったときに直せるようにしておけばいい」というわけです。
実際、川名さんも、「DIYリノベをやり遂げて自信がつきました。家を手直しするハードルは格段に下がったと思います」と話します。
例えば、天井を抜いて生じた室温の問題に対して、川名さんはDIYで対策を打ちました。
「天井にシーリングファン(室内の空気を循環させる送風機)を取り付けました。暖房を入れる季節は、天井近くに溜まる暖気を床に送れるので、室温のムラがなくなり、足元が冷えません。夏は扇風機代わりに使えます」
このように、川名さんはリノベーションで一度完成をみたあとも、DIYを続けています。
では、どのようなときにDIYを行っているのでしょうか。
シーリングファン以外のDIYについてうかがうと、「生活動線で感じた不便を解消するために行うことが多い」とのこと。
「例えばうちの家族は、帰宅すると、『脱いだ上着を椅子にかけて、手を洗いに洗面所へ向かう』という習慣がありました。これには、少し問題があって。椅子にコートがかかっていると、部屋全体が散らかって見えてしまうんです」
川名さんは続けて、「この問題を解決するため、玄関から洗面所へ進む途中に、天井から吊り上げるタイプのハンガーラックを手作りしました。動線がスムーズですし、上着がきちんと片付いたキレイな状態を維持できるようになりました。
作り方も簡単で、30分程度で仕上がりました。必要な材料はロープ、木の棒、フックの3つだけ。お手頃ですし、出来栄えにも満足している作品です」
このように、日々のちょっとした困りごとをDIYで解決するポイントとして、
「あるべきものが必要な場所にあるかという視点で、家での家族の動きをよく観察することです」と、川名さんはアドバイスします。
ご家族の背後には、棚受けダボを使った可動式収納棚が。
さらに川名さんは、「DIYの技能を身につけたことで、子育てにも“心の余裕”ができました」とも語ります。
「例えば、子どもが壁に落書きしたり、足で蹴ったりして汚しても、『また直せばいいや』と、毎日ご機嫌に過ごせています」
DIYリノベをしているときに生まれた息子さんも、現在は5歳に。おもちゃの数が増えたので、川名さんはリビングに収納棚を手作りすることにしました。ここでも、ひと工夫加えています。
「子どもが自発的に片付けられるように、出し入れのしやすさを意識しました。子どもの成長とともに、収納する中身も変わってくると思います。棚板を上下に移動できるよう、棚受けダボという金具を使って、可動式にすると長く愛用できますよ」
また、DIYリノベで得られたことについて、うかがいました。
「昔住んでいた家では、どこか我慢しながら過ごしていたのですが、今はDIYで、家族にとって“ちょうどよい家”へと進化できています。おかげで、気持ちよく過ごせる暮らしを手に入れられました」
収納をもっと使いやすく。収納が変わると、暮らしはどんどんここちよくなります。
第13回キッズデザイン賞:「子どもの成長に合わせて長く使い続けられ、子どもが自分で衣類や荷物の整理をするための棚の工夫」が評価されました。
最後に、DIYにはまった理由について、「植物を育てることも好きなんですが、物事がどんどんよくなっていくプロセスが好きなんでしょうね」と、川名さん。
この家に移り住み始めたころ、川名さんの膝丈ほどだった観葉植物は、6年を経た今、背丈ほどの高さにまで育ちました。
「DIYリノベで成長を実感した」と話す川名さんの姿に重なります。
取材を通して、DIYは単なる家づくりではないと気づかされました。
作り手の生きる力や、家族との思い出を育むことができる、とても豊かな行為だったのですね。
1986年、東京生まれ。築25年の一軒家をセルフリノベーションしたDIYリノベの名人。奥さん、5歳になる息子さんとの3人家族。「自分の経験が誰かの役に立てば」という思いから、DIYブログ「99%DIY」や、You TubeなどでDIY情報を発信中。
https://99diy.tokyo/
文◎井口理恵 撮影◎平野晋子