「介護」の視点から考えるリフォーム[第4回]

安全で快適な生活を担保するバスとトイレへ

空間
浴室
関心
老後介護リフォーム

手すりがあっても立てない

 要介護の方の一番の不安は「排泄」です。生きていれば、かならずトイレには行かねばなりません。介護用の紙パンツなどを使うことに慣れてきても、トイレに行かなくていいと言うことではありません。ほとんどのお年寄りは、できるだけトイレに行って用を足したいと言います。

「介護保険の範囲で、トイレの便座まわりに手すりを付けたり、さまざまなことができます。けれどそれで十分かというと、そうでもありません」と太田浩史さん。

「最近はさすがに和式のトイレはほとんど見かけなくなりましたが、介護用の紙パンツを使っている方などは、間に合わなかったときでもシャワートイレがあれば安心ですし、車椅子などの場合は介助が必要なのでトイレのスペースを広くリフォームすることはとても有意義なのです」

 また、古いトイレの場合、洋式でも高さが低いことがあります。低いトイレの場合、手すりなどにつかまりながら座ることができても、足が弱っているお年寄りは立ち上がることができません。独居のお年寄りで大声を出しても誰も来てくれず、トイレから這って出て電話でSOSを出した、というケースもあるそうです。

「介護保険適応でトイレの便座をかさ上げする設備もありますが、どんなトイレでもできる工事というわけではありません。リフォームをするのであれば、快適な高さの機種を選ぶといいでしょう」

トイレは寝室の近くに

 また、太田さんは、トイレと寝室の距離が短いほうがいいと言います。

「夜中にトイレに行きたくなっても、暗かったり遠かったりして間に合わない、というケースは少なくありません。それを失敗と言ってしまうのは酷です。でもご本人は失敗だと思って、気が塞いでしまったり、恥じ入ったりしてしまうものです。トイレまでの距離はなるべく近いほうがいいのです」

 間取り変更を含めた大がかりなリフォームをする場合、トイレは寝室の近くに設けるのがお勧めだそうです。あるいは、トイレに一番近い部屋を寝室にする手もあります。

 トイレのドアをスライド式にするのはもちろんのこと、ドアそのものを取り払ってしまうという考え方もあります。トイレでも介助が必要な場合や、車椅子での生活を考えると、トイレはかなりの広さが必要になってきます。トイレのドアがなければ、そうしたスペースを取りやすくなります。

「ただし、便座そのものが外から見えないよう、壁などで仕切る必要があります。寝室とトイレを一体化させるというより、『プライベートスペースだけどアクセスしやすい』という形にしていくことが大切だと思います」

高齢者に使いやすい
半埋め込み式のバスタブ

 一般的な住宅では、水まわりの設計の関係もあり、バスとトイレはひとまとまりになっていることが多いと思います。しかし、スペースが足りず、お風呂が狭くて使いにくいことが往々にしてあります。

「脱衣所を含め、お風呂はやはり広めのスペースを取りたいですね。ある程度の広さがあると、入浴するときに楽です。デイサービスなどでサポートを受けながら入浴ができる施設もありますが、一人で入浴できる間は、自宅のお風呂でのんびりできるのが一番です」

 中には、お風呂に入ることが生きがいだという方もいます。安心してお風呂に入っていただきたいものです。

「お風呂の床は、排水機能が高性能ですぐに水が切れ、滑りにくい素材の床を選ぶのがいいでしょう。さらに、浴室暖房が付いていたり、床が冷たくない素材ならば、ヒートショックも防げます」

 LIXILには、水はけが良く、滑りにくい加工をし、冷たさを感じにくい断熱構造の床を搭載したバスルームがたくさん揃っています。

「また、浴槽の高さがあると、お年寄りはまたぐことができません。洗い場からの高さが30〜45cmくらいの半埋め込み式のバスタブを選ぶのがいいですね。もちろん、バスタブの底も滑り止め加工がなされていて、転倒しにくいことが大切です」

 浴槽内に踏み台のようなものを入れると、お風呂から上がるときにも楽です。入っているときは座ることもできます。これは介護保険でまかなえます。

 浴室には手すりも必要です。浴槽の壁にはL字の手すりがあると入浴が楽になります。それ以外の場所も、立ち上がるために掴まるための手すりを設けましょう。

「洗い場では椅子に座って洗うと楽ですが、一般的な入浴用の椅子より、立ち上がることが楽なものを選ぶといいでしょう。背もたれ付きの専用椅子だと、安定もしているし、身体を洗っているときも負担が少なくて楽です」

 蛇口やシャワーの位置も、椅子に座って身体を洗う高さを考慮するといいでしょう。

「一人で入浴できる人でも安全に、スムーズで快適に入浴をできるようなお風呂だと、幸せの度合いが増しますね。お風呂とトイレは、本当にメンタルに直結しますから、時間も費用も掛けてプランを練るといいと思います」

浴室・お風呂

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 4回にわたり、介護を視野に入れたリフォームのポイントをご紹介してきました。

 繰り返しになりますが、「老い」は誰にもやってきます。家族の介護、あるいは自分への介護が必要になってくる時代です。いまはバリバリ働ける、当たり前の生活ができるという方でも、10年後はどうでしょう。

 資金的にも、体力的にも余裕があるうちに、将来の自分や家族の快適な生活を考えてリフォームをするのはいかがでしょう。

〈お話を伺った方〉

太田浩史さん

板橋区上板南口商店街振興組合理事、 一般社団法人日本福祉環境整備機構代表理事、上板橋のコミュニティカフェ併設デイサービス「キーステーション」勤務。

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
イラスト◎河田ゆうこ
画像提供◎PIXTA/Shutterstock

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