「介護」の視点から考えるリフォーム[第2回]

玄関・リビング・寝室の工夫が「引きこもり」を防ぐ!

空間
玄関まわり
関心
老後介護リフォーム

快適な生活を諦めないリフォームを

 在宅での介護生活。どうしたら介護する側が楽に、介護を受ける側が快適に暮らせるようになるでしょう。普段の生活のスタイルを考え、いろいろなことを諦めるのではなく、どうやったらできるかがバリアフリーリフォームのポイントになってきます。

「どこにでも手すりを付け、段差をすべてなくせばいいというものではありません。潤沢な資金があれば間取りをすっかり変えたり、ほぼ建て直しに近いリフォームをしたりすることも可能でしょうが、現実的にそこまで潤沢な資金があるご家庭は少ないでしょう。まずは、介護が必要な方がどういう生活を送るかをリストアップしてみると、優先順位や必要度合いが見えてきます」という太田さん。

「例えば玄関まわりです。玄関というと、上がり框の段差をフラットにすることをイメージしがちですが、歩行器などを使って自分である程度歩けるならば、最近の住宅の段差はさほど気にならないかもしれません」

 現代的な住宅ならば、玄関の上がり框はせいぜい150mm前後です。歩行器を使って歩くなら、この程度の段差は十分クリアできます。介護保険を利用した後置きタイプの手すりもあります。車椅子生活でも、介助者がいるならば、後置き型のスロープを設置すれば大丈夫です。

段差を解消して車椅子でも出入りがしやすいゆるやかなスロープを

「考えるべきは、外の道路から玄関まで、あるいは上がり框までの段差の総合的な解消です。介護で送迎などを行っていると、道路から玄関までのアプローチに高い段差があったり、距離が長い家が散見されます。こうした建物の場合、道路から玄関まで、固定式のスロープを設けたり、さらには玄関の中まで入れる移動用の昇降リフトを設置したりするといいでしょう」と太田さん。

 玄関の中も、大がかりなリフォームが可能なら、スペースを広げることを考えましょう。また、玄関ドアをスライド式にすることも有用です。ドアを押したり引いたりするのは、介助者も大変です。独居の場合、ドアの開け閉めが大変だと、歩行器や杖で歩くことができるのに出るのが億劫になることもあります。引きこもってしまうと余計に足の筋力が衰え、さらなる体調の悪化を引き起こしたり、介護度が増したりすることもあります。

室内の移動で有効なのはドアのリフォーム

 玄関まわりだけでなく、室内の床のフラット化も重要だと言われますが、どうでしょう。
「独居で車椅子という場合を除けば、実は、床をフルフラットにして段差をなくすことは、最優先項目ではありません」と太田さん。

「家の中で歩ける範囲なら、部屋の仕切りにある段差はさほど気にならないのです。あってもせいぜい5cm。その位なら歩行器でもストレスは感じません。車椅子生活の場合は、介護保険などで、自己負担なしで段差解消スロープの設置もできます」

 もちろん、資金的な余裕があるなら、段差を解消するのはベターな選択です。けれど、部屋の敷居をフラットにするより、玄関同様、ドアをスライド式にするほうがお勧めです。バリアフリーを考えれば、ドアはないほうがいいのですが、冷暖房の熱効率の問題や、プライベートを確保するためにも、残したいドアがあるものです。

 戸袋にしまえたり、スライドするドアなら、移動がとても楽です。吊り下げ式のドアなら開け閉めも軽く、スムーズです。開けたまましっかり留められるドアだと、車椅子で一人で移動する場合でも安心です。

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手すりは効果的に設置しましょう

「もうひとつ、廊下の幅はきちんと確認しておきましょう。特に古い建物の場合、廊下の幅が狭いことが多いです」と太田さん

 廊下はただ行ったり来たりするだけでなく、方向転換やUターンをする場でもあるので、幅に余裕があると便利です。また、あとあと手すりを設置する可能性もあるので、リフォームをするなら廊下の幅を広げておくのもいいでしょう。

「手すりに関しては、さまざまなシーンで必要になります。優先順位を考え、どうしても必要になるところに設置するようプランニングしましょう。形状や高さなど、介護が必要な方の体格や体力によって細かい調整が必要ですから、工務店や設計士としっかり相談することです」

生活の「高さ」を変える

 家族が暮らすリビングはどうでしょう。フローリングのリビングは基本的にリフォームの必要はないのですが、古い家だと畳の居間だったり、廊下との段差があるので、大幅なリフォームの必要があるのではないかと思う方が多いようです。

「実は、畳でもあまり問題は起きません。段差を解消するスロープ部材などもあります。畳の上からカーペットなどを敷くだけでも十分です。むしろ座卓や座布団の生活を続けたり、洋室でもソファとローテーブルの環境を変えるほうが、快適に暮らすことができると思います」

 年を取って足腰が弱ると、立ったり座ったりが一番大変になります。お勧めなのは生活空間の高さを変えること。車椅子でそのままいられたり、椅子に座って暮らせるようになれば、立ち座りがぐんと楽になります。座卓やローテーブルではなく、ダイニングテーブルのようなものをリビングの中心に置いてもいいでしょう。

 テレビなども、それに合わせて高さのあるテレビ台に置くなど、家具を変えることで、大幅なリフォームをしなくても暮らしやすくなります。
 和室でも、アジアンテイストのテーブルや椅子を配することで、雰囲気のある空間になります。

寝室は「介護ベッド」を前提に

 年を取って体力が衰えてくると、一番長い時間を過ごすようになるのが寝室です。

「高齢者の寝室は、介護ベッドの利用が前提になると考えるといいでしょう。介護保険を適用すれば、月に1000円〜1500円程度でレンタルできます」と太田さん。

 介護ベッドは高さや背もたれの角度を電動で変えられるものが主流で、高齢者が立ち上がりやすいように設定されています。手すりなども付いて転倒防止にもなるので、現在ベッドで寝ている方も、いずれは介護ベッドに置き換えることを前提にするといいでしょう。

 介護を見据えたリフォームは、体力が落ちた人でもそれまで通り、あるいはそれ以上に楽で快適な生活を送れるようなプランをすることが大切です。屋内の移動や外へのアクセスを楽にすることで、意欲も湧き、自立した生活が過ごせるようになります。

 次回は、キッチン・ダイニング周りのリフォームについて伺います。

〈お話を伺った方〉

太田浩史さん

板橋区上板南口商店街振興組合理事、 一般社団法人日本福祉環境整備機構代表理事、上板橋のコミュニティカフェ併設デイサービス「キーステーション」勤務。

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
イラスト◎河田ゆうこ
画像提供◎PIXTA/Shutterstock

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