料理家に学ぶキッチンづくり[case 3:後編]

ベトナム生活に欠かせない、調味料とキッチンツール~ちぇりさん

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 ベトナム在住10年のちぇりさん。日々の生活の中に、ベトナムの食文化を取り入れています。

「なんといっても、楽しいのは調味料の豊富さですね。特に、発酵調味料の種類の多さには目を見張ります。また、発酵調味料ではありませんが、よく使うのは、海老を使ったSa te tom(サテトム)という調味料です」

 なるほど、さまざまな調味料によって、ベトナム料理の奥深い味や香りがつくられるわけですね。

ちぇりさんがつくったSa te tomを使ったブンの冷麺。ブンを茹でて、材料と合わせるだけの簡単レシピです。

「写真の料理は、ベトナムではあまり見かけない冷麺です。ベトナムならではの米の麺・ブンを、冷たい麺にアレンジしました。茹でたブンを水で締めて、スープの部分は調味料を混ぜるだけのお手軽レシピですが、これが美味しい。旨味のベースには、Sa te tomと合わせて、マッシュルームの顆粒出汁を使います。こちらは肉類にも魚類にも、お野菜ともよく合うので便利ですよ」

 ベトナムで麺といえば、米からつくるフォーのイメージが強いですが、その他にも、米の麺を発酵させたブンや、小麦の麺など、日本と同じように、多様な麺の文化があるようです。

 日本料理をつくるとき、醤油や味噌などはどうしているのでしょう。

「日本の調味料を買うこともできます。でも、どうしても日本のものは高いですね。幸い、ベトナムには中国系の方も多いので、中国製の醤油などは、手頃な値段で買えます」

 どうしても日本の醤油や味噌じゃないと、出せない味があるときは日本製を、それ以外は中国やベトナムの製品を使う、ということでしょうか。同じ調味料でも、さまざまな味があるのは楽しそうです。

「怪しい調味料もあるんですよ。先日、マーケットで見つけたのは、ウニのヌクマム(魚醤)です。ベトナムでも極めて珍しいようで、メーカーがつくった製品というよりは、そのマーケットか、どこかの漁村でつくられたもの、という感じの商品。瓶に入って売られていたんですが、キャップがあるわけでもなく、空き瓶に移し替えて、ラップをして輪ゴムで巻いた、という程度のもの(笑)。衛生的に大丈夫かな、とも思いましたが、食べてみると素晴らしく美味しかったです」

冷凍ストッカーは必須

 ちぇりさんのキッチンに続くダイニングには、冷蔵庫の他に、大きな冷蔵/冷凍ストッカーがあります。日本の家庭ではあまり一般的ではありませんが、ちぇりさんは、このストッカーが欠かせないといいます。

「今の時期(取材時は12月初旬)、ベトナムは比較的涼しいですが、一年を通して南国気候。そのため、調味料や粉物も冷凍・冷蔵することが必要な上に、調達が簡単ではないものもあります。すぐに買い出しに行けない時もあるので、大容量の冷蔵/冷凍ストッカーが必須なんです」

毎日飲む豆乳は自家製で

冷凍ストッカー以外にも、欠かせないキッチンツールはあるのでしょうか?

「実は、我が家では、豆乳メーカーも大事なツールです。ベトナムの方や中国系の方は、よく豆乳を飲むんです。カフェにもありますが、どちらかというとマーケットで、そこの自家製のものを飲むことが多いでしょう。特に女性が好んで飲むことが多く、ちょっと豆乳でも飲みましょう、と勧められることもよくあります」

 ちぇりさんは、どうせ毎日飲むのなら自分で作ってしまおうと考えたそうです。

「こちらでも、自作されている方は多くいらっしゃいます。水に浸した豆を炊飯器などで炊き、すりつぶすという手段が基本なんですが、どうしてもおからのような絞りかすが出るので、処理が大変。しかし、この豆乳メーカーは、大豆をまるごと豆乳にしてくれて、絞りかすが一切出ないという優れものです」

食材を刻んだり、すりつぶしたりする
コンパクトミキサー

 また、毎日の料理にとても重宝しているのは、コンパクトミキサーだそうです。
 このシリーズでご登場いただいた米澤文雄シェフや今井真実さんがお勧めしていた、ハンドミキサーとは何か違うのでしょうか。

「私は、日本でもTVショッピングなどで売られているコンパクトミキサーを、同じような用途で使っています。というのも、ハンドミキサーを使うと、うっかり食材をこぼしちゃうんじゃないかと思って(笑)」

 肉や魚、そして野菜、さらにはスパイスやハーブ、発酵調味料など、ベトナムの豊かな食を満喫しているちぇりさん。そんなちぇりさんのキッチンは、日本のキッチンと大きく変わるものではありませんでした。けれども、ベトナムの豊かな食の世界は、ちぇりさんにインスピレーションを与えてくれるようです。

タマリンドを使った豚の角煮風。いろいろな国の料理の要素が、ミックスされています。

 現在も、ホーチミンの素敵なレストランや、カフェを紹介しているちぇりさんですが、毎日料理をしながら、いつ、そうしたお店に行かれるのでしょうか。

「打ち合わせをするときに気になるお店を指定したり、ランチタイムに友人と新規のお店を開拓したりしています。料理も好きなのですが、それは夜、家族と一緒に楽しむためにやっています」

 ホーチミンは、カフェ文化が盛んだと評判です。アルミ製のドリッパーで、練乳と氷の入ったグラスに直接コーヒーを落とす「カフェ・スダ」は、日本でも10年ほど前に流行しましたね。

「ホーチミンのカフェ文化は、本当に多彩で華やかです。カフェ・スダは、今でもたくさんのカフェで飲まれていますが、ドリッパーを使うのはちょっとレトロな雰囲気のカフェが中心ですね。次々できている最先端のカフェでは、新しいフードやドリンクも提供するようになって、カフェの楽しさがますます広がっています」

 ふらりと旅行して、ホーチミンの食を満喫したくなりました。

≪お話を伺った方≫

ちぇりさん

ベトナム在住約10年の、匿名フードアナリスト。日本で1500軒、ベトナムで2300軒、合計3800軒以上の食べ物レビューを執筆。レシピ提供や雑誌への寄稿、飲食店のインスペクションなどの仕事をしている。ちぇりさんの料理レシピは https://cheritheglutton.com/ で見ることができます。

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)