
キッチンの古びたガスコンロや水栓(蛇口)を見ていると、最新式の器具に替えたくなるでしょう。しかし最新式の器具には、思いがけない「落とし穴」が潜んでいるものです。今回は「IHクッキングヒーター」と「シャワー付き水栓」に潜むトラブルを吉﨑啓太さんに伺います。
キッチンの火まわりに関して時代の変化を追うと、プロパンガス→都市ガス→IH(電磁誘導加熱)という大きな流れがあります。
IHクッキングヒーターは、火を使わないので安全性が高く、手入れも簡単。1990年に200ボルト電源を使用したタイプが発売され、十分な火力が得られるようになると、急速に普及しました。
しかし、2011年の東日本大震災後、停電リスクや節電意識の高まりからオール電化が見直され、近年の自然災害の多発もあり、IH→ガスの動きも見られます。「掃除がラクなIHにしたい」という人もいる一方で、出力が高いことを理由にガスを選ぶ人もいます。
ちなみにIHは、従来のやり方と異なり、鍋自体が発熱するものです。鍋の下のコイルから発する磁力線が鍋底にうず電流を生じさせ、電気抵抗が大きいので、流れる電流が熱に変わるという仕組みです。
こうした人気の火まわり機器でも、導入には注意が必要だとNENGO工務店の吉﨑啓太さんは指摘します。
「特に注意をしたいのが、電気工事。IHに交換するときは、200ボルトの電圧が必要なため、電気工事などを行わなければならないケースがあるのです」
しかも配線工事にあたっては、「壁の状態によって施工方法や仕上げが変わるので注意が必要」と、吉﨑さんは念押しします。
というのも、壁の中に空間がない真壁(しんかべ)の場合、長押(なげし)の裏に配線を入れる方法を採られることもあるそうです。せっかくリフォームをしてきれいに仕上げたいのに、見た目が残念なことになりかねません。
その一方で、吉﨑さんはこうも指摘します。
「キッチンの規格には何かと『600ミリ』というサイズが出てきます。こうした規格により、器具の交換がスムーズにできるようになっている点は便利です。たとえば、新たに食洗機を入れたいとか、今まで使っていた食洗機を新しいものに変えたいといった場合も可能です」
注意したい機器の2つ目が、シャワー付き水栓。蛇腹のような金属ホースが伸びる水栓です。金属ホースといっても、中はゴムでできています。シンクの隅にまで水が届いて掃除がラクになりますし、普通の水流にもシャワーにも切り替えられ、浄水器を内蔵しているものなどもあります。水栓を交換するときには有力候補です。
ただ、注意しておきたいことがあるようです。
「シンクの下を見ると蛇腹ホースが伸びる分だけ余裕を持ってたるんでいるのですが、伸ばして使ったホースにかかった水が滴って、鍋やフライパンが濡れてしまうのです。滴る水の受け皿もあるのですが、邪魔もの扱いで取ってしまう人もいます。長期になるとシンク下が傷んできます。便利な器具に交換するのはいいのですが、こうした点も注意しておきたいものです。シンクの下は頻繁に開け閉めしますが、洗面台の下はあまり見ないので特に注意です」
“時短”に大いに活躍してくれる食洗機も、新しいものに交換したくなるパーツのひとつでしょう。
食洗機は動いている時間が長いので光熱費が高くつくというイメージがありますが、手で流し洗いをするより水道を節約でき、トータルでは食洗機のほうが安く済むともいわれます。
最近はリフォーム用の食洗機が充実し、キッチンを入れ替えなくても、キャビネットを外して取り付けられるのはもちろん、奥行きが浅いキッチン用やシンク下に設置できる機種もあります。多くの選択肢から我が家のキッチンに合った食洗機をじっくり選びたいものです。
(第3回に続く)
一級建築士。大学時代は住環境システムを学び、卒業後、工務店に就職。主にキッチンやトイレのリフォーム現場で働きながら、専門学校に入り直して建築を学ぶ。株式会社NENGOに入社後、一級建築士の資格を取得し、NENGO工務店のマネージャーに就任。施主・設計・施工など現場に関わる人々のチーム力を大切にしながら、リノベーションや新築物件の施工に携わっている。
文◎森田健司(阿吽堂) 撮影◎加々美義人(人物)、小林彦真(ショールーム)
トップの写真(K邸)◎提供:NENGO