庭カフェ歴20年、いしかわじゅんさんが語る魅力 [前編]

心と体をケアする「切り替え」の空間

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ライフスタイル季節

締め切りに追われる毎日がスタート

 いしかわじゅんさんが毎日新聞の4コマ漫画『桜田です!』の連載を始めたのは、2015年2月1日。2020年12月には2000回を超えました。今までの新聞4コマ漫画にはなかった「かわいい」キャラクターが登場し、社会情勢を明るく描いていています。

「この話があったとき、誰か人を紹介してほしいという依頼かと思いました。(『アサッテ君』の作者である前任の)東海林さだおさんの後継者となると、これはなかなか大変。とくに今は、4コマを毎日描き続けるタイプの漫画家があんまりいなくて」

 いしかわさんは、NHK『BSマンガ夜話』の出演や、184人の漫画家とその代表作を記した『漫画ノート』などの著書があり、評論家としても活躍しているので、漫画家の人脈を期待されての連絡だと思ったといいます。

 仕事を引き受けたものの、当時は他の連載も担当しており、毎日が締め切りの新聞連載は、想像以上にきつかったそうです。

新聞の連載は、毎日たったの1本を描けばいいのだが、その1本が心と体に重くのしかかる。

「毎日が締め切りとはいえ、描き溜めればいいとたかをくくっていた。けれど、やってみたら1日1本が限界。想像をはるかに超えて追い込まれました」

 連載と同時に描き進めたい別の作品もあるけれど、余力がない。大ベテランのいしかわさんにあっても、プレッシャーが重くのしかかります。

心を支える「空っぽにする」時間

 いしかわさんの作品は、ギャグが効いたものが多いのも特徴です。

「ギャグ漫画家って、行き詰まって不幸な結末を迎えることが多いんですよ。連載の締め切りに追われ、その中でレベルを上げていかなくてはならないという重圧に押しつぶされてしまうのかもしれない。心を病んでしまう人もいる」

 しかし、いしかわさんは自らの心をコントロールすることができたそうです。

 その理由一つは、「きついけれど、やりたい仕事しかしていないのだから、作品づくりそのものは楽しい」ということ。

 ギャク漫画に限らず、人気漫画家といえども、版元や編集者から、描きたいものではなく売れるものを要求されることは少なくありません。しかし、いしかわさんはデビュー以来、一度も「こう描け」と強いられたことはないそうです。

庭カフェで「空っぽにする」時間をもつことで、心のバランスを整えることができるといういしかわさん。

「私のまわりには人気漫画家がたくさんいるけれど、この話をすると一様にうらやましがられる」といいます。

 そして、もう一つの理由が「庭カフェ」にありました。

「仕事のことをまったく考えない、空っぽの時間をつくれる空間があったことかな」

 いしかわさんは、朝明るくなるまで仕事をして、昼前まで就寝して再び机に向かいます。そして、庭カフェで一息つき、夕方になると吉祥寺界隈へ。お気に入りの喫茶店などを巡り、漫画の下書きを行います。これをいしかわさんは「ネームの旅」と呼んでいます。

 仕事場とネームの旅の合間に、何もしない、何も考えない時間を過ごすのがいしかわさんのルーティンであり、庭カフェの使い方なのです。雨の日や北風の吹く寒さが厳しい時期は、2階の仕事場から庭カフェを眺めます。

ココマ:カフェでほっとする

エクステリアでインテリア空間を愉しむことのできる贅沢を。
www.lixil.co.jp/lineup/gardenspace/cocoma2/case/plan03.htm

サンルームとは? わが家につくる小さな別荘:

季節を問わず快適に過ごせる“小さな別荘”が、わが家の庭に。
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吉祥寺に根付くいしかわさんの活動

漫画の作品だけでなく、漫画評論家としても数多くの著書がある。写真◎三星雅人

 いしかわさんと吉祥寺との出会いは、大学入学の時。いまでこそ住みたい街の上位にランキングされる吉祥寺ですが、50年ほど前、いしかわさんが住み始めた頃の吉祥寺は、「井の頭公園をはじめ自然も残っている」武蔵野ののどかな街でした。

 故郷の愛知県豊田市の高校を卒業し、明治大学に入学して漫画研究会に入ったいしかわさん。大学の漫研の先輩に(『沈黙の艦隊』などの作者)かわぐちかいじさんなどがいて、たまに仕事を手伝ったりもしていましたが、卒業後は故郷の大手自動車メーカーに就職。しかし、「サラリーマン生活は合わなかった」とわずか11か月で退職、吉祥寺に戻ってきます。

 その後、プロの漫画家に転身してからは、青年誌から一般誌まで幅広く作品を発表する一方、エッセイや漫画評論、小説、テレビドラマや映画出演、CMモデルなど多彩な分野で活躍。特にNHKで1996年から2009年まで放送された『BSマンガ夜話』での的確な漫画評は、コアなファンをうならせただけでなく、多くの新しい漫画ファンを生み出し、その裾野を広げました。

愛猫のミミちゃん。いしかわさんの作品にしばしば登場する。

 吉祥寺に住み、仕事場を構え、『憂国』『薔薇の木に薔薇の花咲く』『寒い朝』、エッセイでは『業界の濃い人』、漫画評論では『漫画の時間』『漫画ノート』『秘密の本棚』など多くの作品を発表します。近年では、『吉祥寺キャットウォーク』や愛猫とのライフエッセイコミック『ミミ正』など、吉祥寺を舞台にした作品も。

 また、吉祥寺のギャラリーで個展や吉祥寺周辺に住む多くのアーティストたちとグループ展を開催するなど、吉祥寺にこだわり地元での活動も盛んに行っています。

 毎日新聞の朝刊に連載中の『桜田です!』も、東京の郊外にある「むさしの町」に住む桜田ファミリーの物語。吉祥寺がモデルであることは明らかでしょう。

 いしかわさんの仕事場は本や資料に埋もれており、著書『秘密の本棚』の表紙そのものです。雑然とした仕事場とは対照的に、ウッドデッキにはテーブルとイス、あとは食事の前にひとつまみして収穫するためのハーブを植えたプランターがあるくらい。なるほど、庭カフェのシンプルさこそが、無になる時間を過ごせる空間であることがわかるというものです。

本や資料に埋もれた仕事場。がらんとした庭カフェと対照的な雑然とした光景だ。

(後編に続く)

≪お話を伺った方≫

いしかわじゅんさん

1951年、愛知県生まれ。明治大学卒業後、1年弱の社会人経験を経て漫画家へ転身。ギャグからシリアスな漫画まで幅広く作品を発表する一方、エッセイや漫画評論、小説、テレビや映画出演など多彩な分野で活躍している。2015年から毎日新聞朝刊の4コマ『桜田です!』を連載中。

文◎三星雅人 写真◎平野晋子

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