じめじめした季節だから知っておきたい「住まいの対策」 最先端の「防カビ」事情(後編)

新たな世界標準「24時間全館空調」が住まいのカビを断つ

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空気の「質」にもこだわりを!

 成人男性が1日に摂取する食べ物や水分は、それぞれ最低でも1kgくらい。それに対して空気は約18kgにもおよびます。
 人間は食べ物がなくても約30日間、水がなくても約3日間は生きていけますが、空気がないと3分間と命がもちません。

「人が取り込む空気の約6割は自宅の空気なのです。私たちは食べ物や水にこだわります。しかし、空気には無関心です。これはカビ対策ということにとどまらず、健康を考えたとき、食べ物や水以上に住まいの室内の空気の「質」にこだわるべきだと思います」

 室内の空気を汚染するホルムアルデヒドなどの化学物質は「シックハウス症候群」の原因として、かつて大きな問題になりました。この問題が発端になり、2003年に建築基準法が改正され、住宅の換気システム設置が義務化されました。

 ただ現在では、化学物質を含む建材や接着剤の使用が使われなくなったため、ほとんど問題になっていません。

 また、1970年代に大問題だったの大気汚染も、自動車や工場の排出ガスに厳しい規制がかけられたことで、話題になることはなくなりました。

 ですが厚生労働省によれば、日本人の3人に1人がかかるというがんの内、いま最も死に至らしめるのは肺がんということをご存じでしょうか?

「公害が深刻だった時期を暮らした人たちの肺には、大気汚染のダメージが蓄積しています。もちろん喫煙者の肺が大きく傷つけられているのは言うまでもありません。肺には今まで吸い込んできた空気全ての履歴が刻まれています。もっと空気の質に関心を持つべきでしょうね」

新たな汚染物質が室内に入り込む!?

 もはや春の国民病といえる花粉症の原因となるスギやヒノキの花粉、さらには黄砂も海を渡って飛来してきます。
 梅雨時は窓を開け放つことは少ないでしょうが、過ごしやすい4~5月に窓を開け、常に外気を取り入れていると、カビ対策にはなるのですが、花粉や黄砂が室内に入り込むようになったのです。

 もっとも、これらはレースのカーテンやこまめな清掃でも対策ができますが、心配なのがPM2.5に代表される汚染された微粒子の室内流入。呼吸器系の防御機構をかいくぐって肺の細胞の奥まで入り込み、ぜん息や肺炎、肺がんのリスクを上昇させると言われているからです。

 そういった意味でも、汚染された外気を取り入れないようにして、人間が排出する二酸化炭素や、ホコリやカビなど有害な物質が含まれた室内の空気をしっかり排気する必要があるのです。

 そこで注目すべきなのが、すでに設置は義務化されている「換気システム」です。

 ファンの音がうるさいなどと、換気のスイッチを切ったままになっていませんか? カビ対策はもちろん、有害物質を取り除き、新鮮できれいな空気を取り込める、フィルター付きの高性能な換気装置が欠かせないのです。

究極の防カビ対策は
24時間全館空調の住宅

部屋の換気をするとき、暖められた室内の空気の熱を利用して、冷たい外気を温めて室内に取り込む熱交換換気。夏場ならその逆で、一年中、室温を快適に維持しやすい。フィルターをつけることで、汚染物質もシャットアウトできる。

 カビに悩まされることなく、四季を問わず快適に過ごせるようにするためには、高断熱化&高気密化による省エネルギー住宅であることが大前提。加えて、完璧に機能する「24時間換気」が必要で、快適な温熱環境と清浄な空気質がセットで実現されているのが健康住宅の必須条件です。

 それもただ換気するだけではなく、室内の温度を保てる機能を持ったものが理想的です。

「排気中の熱エネルギーを回収して、外から取り入れる給気に『暖気・冷気』を受け渡すことのできる全熱交換機能付きの換気装置なら、冷暖房を行っているときでも、冷気や暖気を外に放出せずに、常に室内の空気の『質』を高めることができます。
 省エネにも効果絶大で、ひとりでも多くの人にこの装置の存在を知ってもらい、新築やリフォームの際に活用してほしいですね」

 そして、前先生が住宅への導入を勧めるもうひとつの機能が、家全体を同じように快適な温度に保つ「全館24時間空調」です。

「室内でも場所によって温度が大きく違うこと、家の中でも結露現象(内部結露)が起きて、その場所だけ相対湿度が高くなって、カビやダニなどが繁殖する原因になります。

 ヨーロッパの住宅のように、24時間全館空調を導入して、家のどこでも同じように快適な温度を実現できれば、カビ対策はもちろんのこと、温度差による血圧変動で起き、命にもかかわるヒートショックも根本的に解決できるのです」

 24時間全館空調だと設備費や維持費が心配になりますが、当初からこのシステムを前提にして高断熱化・高気密化を行った新築住宅なら、そのメリットのほうが大きいと前先生は言います。

 カビ知らずの快適で健康的な家づくりは、結露を防ぐ対処療法だけではなく、まず室内の空気の「質」にこだわってみると、対策が見えてきます。最新の防カビ対策は、24時間全館空調で極まるようです。

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お話を伺った方

前 真之(まえ・まさゆき)さん

東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授。工学博士、一級建築士。
建築環境工学の第一人者で、住宅のエネルギー消費全般を研究のテーマに、暖房や給湯にエネルギーを使わない無暖房・無給湯という省エネで高い快適性の住宅の開発に注力している。

文◎渋谷康人 撮影◎村越将浩 資料提供◎東京大学大学院前研究室
タイトル写真◎PIXTA

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