じめじめした季節だから知っておきたい「住まいの対策」 最先端の「防カビ」事情(前編)

脱・高温多湿! 空調機器を上手に使って室内の空気をコントロール

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日本人は昔からカビに悩まされてきた

「昔の家は、浴室や洗面室は別として、それほど神経質にカビ対策をしなくても平気でした。昔と今の違いを知れば、おのずとカビ対策の要点が分かります」

 これはいったい、どういうことなのでしょうか。

「昔の家は『すき間だらけ』だったから、カビはじめじめした梅雨時さえ気をつけてさえいれば深刻な問題ではなかったかもしれません。今の住宅は、断熱・気密化は温熱環境や快適性を高めていますが、住宅の機能のひとつである換気や空調といった家の空気の『質』のことをおろそかにすると、カビにとって都合の良い環境になってしまうこともあるのです」

 今の家は梅雨時ばかりでなく、1年中カビには気をつけなくてはなりませんが、昔の家はカビ対策がいらなかったかといえば、それは違います。

 昔の家は気密性がなかったので、空気がこもることは少なかったでしょうが、床下土壌からの湿気に絶えずさらされていたわけですし、昔の家は独特のすえた臭いがしていたのは、カビが原因だったと考えられるからです。住宅に生えるクロカビ・コウジカビ・アオカビなどが放出する揮発性有機化合物(MVOC)の臭いに対し、人は非常に敏感です。

 そういった意味で、私たち日本に住む者は、ずっとカビに悩まされてきたとも言えます。

梅雨時ばかりではないカビの発生

梅雨時ばかりでなく冬場でも油断できない。とくに暖房した部屋から暖房していない部屋へ暖かく湿った空気が入り込むと温度差で壁の表面や壁の内部に結露が生じカビやダニが発生しやすくなる。

 カビは目に見えない胞子にはじまり、空気中を普通に漂っています。そして細かなホコリや汚れがある場所に定着、食べカスのほか、浴室のタイルについた皮脂汚れ、石鹸カスなどから養分を摂取し、細胞分裂しながら成長します。やがて菌糸が十分に伸びて成熟すると、新たな胞子を作って空気中に舞い上がり、またどこかに定着、そこで発芽して成長、飛散を繰り返します。

 とくに、湿度70度以上で温度が20~30度になると、繁殖しやすい条件が整い、短期間でどんどん増殖します。カビの浮遊濃度は、特に梅雨期と秋季に高いことが知られています。

 外気の温度が低く乾燥しているはずの冬も油断できません。
 建物内で発生する湿気のために室内の気温も湿度も高くなり、断熱不足で表面温度が低い場所では結露が発生します。これがまたカビにとっては好都合な環境になります。

 結露しているガラス窓やその近くの壁、天井、家具の裏、さらには壁の中の断熱材や床下まで、結露が繰り返し発生する場所ではカビが生える可能性が高まります。

 結露や雨水により木材が湿潤の状態に長くさらされると、カビの仲間である腐朽菌が活発に活動するため、住宅の構造に大きなダメージを与えることもあります。

ぜん息をもたらすダニは
カビが好物

 住まいに生えるカビを「健康」という視点で考えたとき、厄介なのがぜん息など呼吸器疾患の原因になることでしょう。

 ぜん息といえば、かつては小さな子どもの病気でした。身体の成長とともに10歳くらいまでには自然に治ってしまうものでした。
 ところが、今は違います。男女を問わず大人のぜん息患者が激増しているのです。特に50代から70代にかけて、高齢者の健康に大きな脅威になっています。

「ぜん息の原因は様々ありますが、寝具やじゅうたんなどに生息するダニやその死骸などを含むハウスダストは強いアレルギーを引き起こします。ダニのエサはカビなので、家の中にカビが生えると、ぜん息のアレルゲンであるダニも増えてしまうわけです」

梅雨時は室内の温度と湿度を
下げることが基本

 では健康の重大な脅威になる、「住まいのカビ問題」は、どのように解決すればいいのでしょうか。

「カビの胞子は空気中に普通に漂っているもの。だから、完全に胞子を除去することは不可能。梅雨時や夏場に簡単に行えるカビ対策は換気をすることと、エアコンや除湿機で室温や湿度を下げて、なるべくカビが繁殖しにくい状態にコントロールすることです。
 冬場のカビ対策は室内の結露を解消させることが第一です。この場合は逆に、壁や床、天井などの表面温度を高めて室温に近づけることが対策の重要な柱になります」

 部屋にはカビの菌以外にも、人が排出する二酸化炭素をはじめとする有害物質やホコリがあります。湿気の多い梅雨時、有害物質を室外に排出し、新鮮な外気を取り入れれば、エアコンで除湿した空気を湿らせてしまうことになりますが、健康のためには必要なことなのです。

 その換気の目安は1時間に5分から10分といわれています。もちろん、換気中もエアコンや除湿器は切らないでおきましょう。

「エアコン暖房で部屋が乾燥するのを嫌って、特に冬場に加湿器を使う人もいます。しかし、加湿することでカビの繁殖に適した高湿の環境をつくるだけでなく、加湿器の水タンクが雑菌に汚染されている場合は室内空気を汚染してしまうことになります。これは注意してください」

 もうワンランク上の対策としては、窓を多重サッシに変えて結露を防ぐことや、和室の場合、畳の感触や風合いはそのままに、ダニが発生しない紙製の畳に替えるのも有効だそうです。

 次回は、この室内の空気の「質」をキーワードに、梅雨の季節はもちろん、一年中「健康になれる家」について教えて頂きます。

(後編に続く)

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お話を伺った方

前 真之(まえ・まさゆき)さん

東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授。工学博士、一級建築士。
建築環境工学の第一人者で、住宅のエネルギー消費全般を研究のテーマに、暖房や給湯にエネルギーを使わない無暖房・無給湯という省エネで高い快適性の住宅の開発に注力している。

文◎渋谷康人 撮影◎村越将浩 資料提供◎東京大学大学院前研究室
タイトル写真◎PIXTA

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