花粉症知らずの快適住まい [後編]

「冬は暖かく、夏は涼しい」省エネ住宅は室内の空気も健康的

空間
リビング・寝室・居室
関心
健康季節悩み

花粉にも強い
高断熱、高気密の家

夏涼しく冬暖かいエコハウス(省エネ住宅)と第1種換気の組み合わせで、花粉やPM2.5対策は万全にできる。

 日本の住宅は「冬寒くて夏暑い家」といわれます。それは住宅の断熱性が低いためで、室内と屋外の熱の出入りが多く、特に伝統的な日本家屋や築古住宅では、冬場の寒さという点では隙間風もやっかいな一因です。こうした住宅は、室内の汚れた空気を屋外に放出し、新鮮な空気を取り込む自然換気には向いているのかもしれませんが、花粉やPM2.5などを含んだ外気も入り込みやすいという面もあります。

 現在の住宅では、住宅建材や家具などが発生源のホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物)などを室外に放出させるため、機械による24時間換気機能を備えなくてはならないと建築基準法で定められています。したがって、気密性の高い住宅で窓を閉めていても外気は入ってくるので、 花粉やPM2.5が室内に入り込むリスクがあります。

 では、どうしたら花粉やPM2.5を防げばいいのでしょうか。
 多額の費用がかかる難題ではありません。室内に空気を取り込む吸気口にフィルターをつけるだけで有害物質をシャットアウトできるのです。

「断熱性と気密性は、住宅の最も大切な基本性能のひとつです。断熱性と気密性をしっかり確保すれば、『冬は暖かく、夏は涼しい』快適な家が実現できます。汚れた外気はフィルターでカットできますので、花粉にも強く暖冷房費も大きく節約できます」

 断熱性と気密性にすぐれたエコハウス(省エネ住宅)なら、室内の有害物質も外に放出でき、フィルターを介してきれいな空気を取り込めるばかりか、「冬は暖かく、夏は涼しい家」なので、ヒートショックや低体温症、熱射病といった、高齢者にとっては生死に関わる住環境をも改善できます。

 ヒートショックは血圧の急変動に伴うさまざまな症状で、建物内で部屋ごとの温度差が大きいことが原因とされます。冬に暖房が効いたリビングルームから、暖房のないトイレや脱衣所、玄関などに移動する際、ヒートショックのリスクが非常に高くなります。入浴時に急激な血圧低下により失神し、溺れて死亡するケースは典型的です。

花粉を除去して快適な室内環境を維持

熱交換換気とエコハウスの組み合わせを推奨する東大大学院の前先生。家の中の温度差によるヒートショックを含め、健康的な生活のためにも家全体の温度コントロールは重要課題だ。

「ヒートショックという言葉とその危険性は、私の調査では90%以上の方がご存知です。断熱性、気密性は生命と健康を守る安全対策としても捉えるべきです。ヒートショックを防ぐには、家じゅうを暖かくする『温度のバリアフリー』が必要になります。今までのように人が居る部屋だけ暖める個別空調ではなく、家全体を常時暖冷房する『全館空調(セントラル空調)』が注目されていますが、その省エネのために有効なのが、排気する室内の熱をムダにしない『熱交換換気』です」

 熱交換換気とは、文字通り熱を交換する換気法です。前回紹介した3種類の換気法のうちの第1種換気において、室内の給排気を強制的に行う換気扇に、排気される室内の空気から熱を回収して、新しく取り入れた外気に熱を移す機能を持たせるものです。

部屋の換気をするとき、暖められた室内の空気の熱を利用して、冷たい外気を温めて室内に取り込む熱交換換気。夏場ならその逆で、一年中、室温を快適に維持しやすい。フィルターをつけることで、汚染物質もシャットアウトできる。

 室内の空気の入れ替えによって、暖房時や冷房時には外気温の影響を受けますが、熱交換換気では外気の温度を調整して室内に入れるので、室内温度を保ち、換気に伴う暖冷房熱のロスを抑えられます。

 熱交換換気には、熱だけを交換する「顕熱交換」と、熱と一緒に湿度も交換する「全熱交換」があります。「全熱交換」では、冬には乾燥した冷気に熱と湿度を移して取り込むので、室内の急激な乾燥を防ぐ効果があります。夏には高温多湿の外気を予冷・除湿して取り込むので、冷房の負担を軽くできます。


サーモグラフィで室内の温度が一目瞭然

第3種換気の場合(冬)

熱交換なしに給気するため、吸入口から冷たい外気がそのまま入り、花粉やPM2.5も侵入してくる可能性も。冷暖房の負荷も大きくなる。

第2種換気の場合(夏)

外気の熱と湿度がそのまま室内に侵入しエアコンの効きを悪くしてしまう。フィルターがなければ有害物質も侵入の可能性がある。

第1種換気の場合(夏)

高気密住宅と熱交換換気の組み合わせで、家全体が暖か。夏場は逆で、家中快適な温度が保てる。フィルターを装着することで汚染物質の室内侵入も防げる。

これからは空調と換気を
セットで考えるのが正解

 花粉やPM2.5をシャットアウトする換気装置のフィルターは汚れやすく、掃除が面倒なのが難点です。特に身長の低い女性にとっては、天井近くに換気装置を設置した場合、掃除するのはひと苦労でしょう。まして、天井にあってフタをされていれば、ネジを回して開けるなど脚立があっても大変です。

空調と換気をセットで考えると、快適で健康的な生活像がみえてくる。

「床下に換気装置をつけられる場合もあります。これなら床を掃除機で掃除するついでにフィルターをきれいにしたり、交換することも簡単です。換気装置は設置すればおしまいではなく、メンテナンスが簡単なことが重要です。設置場所にも注意を払うべきです。フィルターが汚れていれば効果はなく、ファンが空回りするだけです」

 花粉やPM2.5などの有害物質の侵入はフィルターでカットできますが、ここが汚れていては、その効果を十分に発揮できません。メンテナンスがしやすい工夫も大事なのです。

「単なる暖冷房でなく、空調と換気をセットで一体化させて考えていくのがこれからの流れであり、広がっていくと思います。実際、穏やかな空気、きれいな空気の中で過ごせますよ」
 前先生は、健康的なエコハウスの快適性を花粉やPM2.5を除去したきれいな空気の面からお話ししてくれました。

お話を伺った方

前 真之(まえ・まさゆき)さん

東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授。工学博士、一級建築士。
建築環境工学の第一人者で、住宅のエネルギー消費全般を研究のテーマに、暖房や給湯にエネルギーを使わない無暖房・無給湯という省エネで高い快適性の住宅の開発に注力している。

文◎森田健司 撮影◎村越将浩 資料提供◎東京大学大学院前研究室
タイトル写真◎PIXTA

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)