花粉症知らずの快適住まい [前編]

「換気」の常識を変えて、外気の汚染物質をシャットアウト

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花粉やPM2.5で「換気」の常識に大変化

「従来、『換気』といえば、汚染物質が室内から出てくることを前提に、汚れた室内の空気を屋外に出し、屋外のきれいな空気を室内に取り入れることでした。空気の汚染源には、フィルターで吸い取れないような微小な粉塵が多いタバコ、ガスや石油を燃料として室内の酸素を使い、排ガスを室内に出してしまう暖房器具などがあります。

 なかでも燃焼用の空気を室内から取り入れ、排ガスをそのまま室内へ排出してしまう開放型燃焼器具といわれるものが一番よくありません。コンロやストーブ、ファンヒーターなどです。人が呼吸により酸素を消費して排出した二酸化炭素も汚染物質のひとつです」

本来は、汚れた空気を室外に出し、きれいな外気を室内に入れるのが「換気」だったが、外気が花粉やPM2.5などで汚染されつつあるいま、換気の常識を見直す時期にある。

 そのほか、建材や家具などに使われ、シックハウス症候群の原因として一時期大騒ぎになったホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物)なども汚染物質にあげられます。建材の問題は改善されましたが、輸入家具にはVOCの問題が残っているようです。

 さらに、室内と屋外の空気を入れ替えるという「換気」の前提が崩れるような大きな変化についても指摘します。
「汚れた空気を屋外に出し、きれいな空気を屋外から取り入れるのが換気の大原則でした。ところが今、季節を問わずといってもいいくらいに飛散するさまざまな花粉や、黄砂とともに冬から春にかけて量が多くなるPM2.5により、屋外の空気が汚染されるようになりました。そんな状況で屋外の空気をただそのまま取り入れて良いのか、よく考える必要があるのです。これまでの換気の常識を見直さなければならないのが現状です」

水や食べ物にはこだわるのに、
なぜ空気には無頓着?

 災害や遭難などから生き残るサバイバル技術の基本に「3の法則」というものがあるそうです。
「空気3分、水3日、食料3週間」で、それぞれ、この時間を超えて確保できないと生存率が極端に低くなるという目安です。
大きな災害があったときに「発生から72時間が経過しました」とよく報道されるのも、飲まず食わずで生存できる3日間が経過して一気に生存率が低くなるからです。

「健康のために、日常生活で水や食べ物にはこだわっている人はたくさんいます。一方で、1日24時間365日、常に吸い込んでいる空気には、無頓着な人が多いようです。しかし水や食べ物と違って、空気は清潔な場所でたっぷり吸って体内に貯めておく、ということができません。常にいる場所の空気を吸い続けなければならないわけですから、特に長時間滞在する場所の空気質が重要になります。」

「水や食べ物にはこだわるのに、大切な空気には無頓着な人が多い」と前先生。

 人間の体は、全身から二酸化炭素を集めた血液が心臓から肺に向かって送り出され、肺で二酸化炭素と呼吸する空気から得られた酸素を交換して、酸素を大量に含んだ血液が心臓に戻ってくるようにできています。この血液の流れを肺循環といい、心臓と肺は二酸化炭素と酸素の交換専用に太い血管がつながっています。

「人体は呼吸により1日に12kgくらいの空気を出し入れしています。これは水や食べ物の摂取量の10倍以上で、空気は健康に多大な影響を及ぼすのは当然です。どこでも24時間、新鮮で清潔な空気を得られることはとても大切なのです。一般ユーザーだけでなく設計者まで、『換気装置は設置が義務付けられているだけで、運転しなくてもいい』と考えている人が少なくないのは大きな問題でしょう。」

「第3種換気」から「第1種換気」の時代へ

 汚れた空気を屋外に出し、きれいな空気を屋外から取り入れる換気の方法には、大きく、窓の開閉などで行う「自然換気」と、換気扇などを使う「機械換気」があります。

 2003年に建築基準法が改正されてからは、シックハウス対策のために機械換気の設置が義務付けられています。機械換気については、給気・排気のどれを電動ファンで分担するかで、下図のように3種類の換気に区分されます。

第1種 吸気・排気とも電動ファンで行う方式。最も確実に換気が可能で、空気の流れを制御しやすく、熱交換方式にも対応できる。集中的に給気する方式なので、高性能な外気浄化用フィルターを用いれば花粉やPM2.5粒子の除去が可能。初期費用やランニングコストがやや高い。

第2種 吸気のみ電動ファン、排気は排気口から自然に行う方式。他の部屋の空気が入り込みにくいので、室内を清浄に保ちたいときに有効。太陽熱や地熱利用で用いられるが、住宅では珍しい方式。

第3種 排気のみを電動ファンで強制的に行い、吸気は吸気口から自然に行う。高気密住宅では低コストで計画的な排気が可能だが、室内が負圧になるため、天井裏などに有害な空気が発生している場合、流れ込む可能性があるので対策が必要になる。

「現在普及しているのは、ほとんどがトイレや浴室などに排気ファンをつけた、安価な第3種換気です。建物の気密性が高ければ一定の効果があり、簡便で設置費用やランニングコストも低廉です。
 しかし将来的には、給気・排気の両方に電動ファンをつけて集中的に空気を管理できる第1種換気が主流になると考えています。吸気側に汚染物質を取り除けるフィルターを取り付けることで、花粉やPM2.5対策に効果的です。

 また現在増えてきている全館24時間暖冷房にも、第1種換気は有利です。せっかく空調した空気をそのまま排気するのではなく、取り入れた外気と熱・湿気を交換することで、室内を快適に保ち暖冷房の省エネにもつながります。」

 なお、花粉対策については、換気のほかにもすべきことがあるようです。

「日々の生活において花粉を室内に持ち込まないことが、非常に重要です。室内の花粉のかなりの部分は、外出時の着衣に付着して持ち込まれます。家に入る前に衣類をしっかりはたいたり、コートは居室から離れた場所に収納したりといったことが必要でしょう」

 室内の花粉は空気清浄機で除去したくなるところです。しかし、室内を浮遊しているときは効果は認めらますが、時間が経つと花粉は落下して床表面に付着してしまいます。
 こうなると空気清浄機では花粉対策にならず、掃除機が有効です。しかし、掃除機の排気でまた飛散させかねませんので、排気をしっかりろ過するタイプの掃除機を選びましょう。

(後編に続く)

お話を伺った方

前 真之(まえ・まさゆき)さん

東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授。工学博士、一級建築士。
建築環境工学の第一人者で、住宅のエネルギー消費全般を研究のテーマに、暖房や給湯にエネルギーを使わない無暖房・無給湯という省エネで高い快適性の住宅の開発に注力している。

文◎森田健司 撮影◎村越将浩 資料提供◎東京大学大学院前研究室
タイトル写真◎PIXTA

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