鈴木:住宅設計の基本は、お客さんの趣味嗜好を読み解いて、ライフスタイルを提案してあげることでしょ? だから、「うちは大型犬を飼っているんです」みたいな話が飛び出したら、「じゃあ、思い切って玄関を3倍くらいの広さにしてみますか?」なんて提案をする。すると、たいていのお客さんは「?」って顔をされる。
藤山:でしょうね。
鈴木:それから、玄関の広さが3倍になるとどんなことに使えそうかという話をして、その案に乗ってきたらそのまま進める。ダメだったらいったん保留。
藤山:なるほど。ちなみに、大型犬と広い玄関ってどういう関係があります?
鈴木:普段はリビングなどにいる犬も、来客のときはケージの中に入れておかなければならないことがある。そんなとき、大型犬のケージ置き場には広い玄関が重宝するんだよ。
藤山:あーそうか。
鈴木:べつに、玄関でもバルコニーでも階段でも、どこでもいいんだよ。誰もがこだわるLDK以外の場所、一見どうでもよさそうな場所を1カ所だけガッと広くしてみる。すると、それまで想像もしなかったような生活が立ち上がってくることがよくある。「せっかくこういう場所があるのだから、何かに使ってみよう」って、住んでいる当人はいやでも考え始めるものなの。
藤山:へぇ、そんなものですか。
鈴木:平たく言えば、「ライフスタイルの余白をつくる」。それがスペシャルをつくる意味だろうね。
藤山:そういえば、スティーブ・ジョブズが言っていたそうですよ。「消費者は本当にほしいものを知らない」って。いま、スペシャルの話をうかがいながら、それを思い出していました。結局、収納や設備って、わが家を快適にするために、お客さんの頭の中で考えられる精一杯の要望なのでしょうね。だから、設計者がその要望をかなえただけで仕事をした気になっていたら、それは設計というより単なる御用聞きでしかありません。iPodやiPhoneみたいな感動は、決して生まれてこない。
鈴木:そういうこと。要望の向こう側に足を踏み入れてはじめて、われわれの本当の設計が始まるんだ。
藤山:いま、「いいこと言ったなオレ」って顔しましたね(笑)。でも、本当にそのとおりだと思いますね。
(おわり)
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