

藤山:そんな、洗濯物を干す場所すら考えていなかった鈴木さんが、いまのように住宅をまともに設計できるようになるまでには、だいたい何年くらい必要でした?
鈴木:うーん、どうだろう。おそらく10年くらいじゃないかな。年数というより設計した棟数だろうね。どれだけ場数を踏んだかが設計者の腕を決めるのだと思う。ある程度数をこなさないと、自分のスタイルみたいなものも見えてこないしね。そういう意味では、住宅の設計を始めて何年かして、今度は奥さんのお兄さんから新築の設計依頼があったんだけど、その家が私のターニングポイントだったかもしれない。
藤山:どんな家ですか?
鈴木:お兄さんとうちの奥さんとで話が盛り上がっちゃって、ひとことで言えば「収納スペースばかりある家」をつくったの。そしたら、その家が住宅雑誌に掲載されて、記事を見た読者から、「うちにも収納がいっぱいの家をつくってくださーい」って依頼が山のようにきた。それからしばらくは収納ブームの嵐が吹き荒れて、うちは「収納の家」ばかりつくらされる設計事務所になっちゃった。
藤山:メディアの力って大きいですからね。
鈴木:打ち合わせにくるお客さんは、もちろん収納についての要望を次々と繰り出していく。それはべつにいいわけ、最初からそういうつもりなんだから。
藤山:まあ、そうですね。