鈴木:ただ、それだけじゃ終わらないんだ。収納と同じくらいたくさん出てくるのが設備の要望。「食洗機を付けてください」「浴室暖房乾燥機がほしいかも」「床暖房がないと寒くてつらいわ」って、打ち合わせの間中、設備の要望が延々と続いていく。
藤山:ええ。
鈴木:それで、あるとき気がついた。家というのは「収納」と「設備」をクリアしておけば、とりあえずの満足感は得られるものなんだなって。ついでに、仕事の依頼も安定してくるんだなって(笑)。そういう家が得意な設計者だと分かればね。
藤山:経営の安定は大切です。
鈴木:でも一方で、「家ってその程度のものなの?」という思いもだんだん強くなってくるわけ。収納をたくさんつくったところで、コストは上がる一方で、ちっともいい家にはならないじゃないかって。
藤山:売れっ子なりの葛藤が始まったわけだ。
鈴木:で、ひらめいたのが「スペシャル」。
藤山:スペシャル?
鈴木:たとえば、一枚物の無垢板をお客さんに選んでもらい大きなダイニングテーブルを特注するとか、トイレや廊下みたいな無味乾燥な場所に、あえてニッチ(壁の一部をくぼませた部分。飾り棚などに利用される)をつくって好きな雑貨を飾れるようにしてあげるとか、住宅にはそういう要素も必要だな、と。
藤山:発見しましたか。
鈴木:発見した。当初はお客さんのためというより、半ば自分の都合。住宅設計に対する物足りなさを埋め合わせるために、無意識にやっていた部分もある。でも、竣工後何年か経ったお客さんから、「打ち合わせのときは意味が分からなかったけど、住み始めると、あのとき鈴木さんに提案された意味がようやく分かるようになった」と時間差で喜ばれて……。
藤山:スペシャルの意義を再確認した?
鈴木:そういうことだね。
(つづく)
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