65歳からの「シルバーリフォーム」新常識 第1回

玄関に「収納」と「ベンチ」は必須。「廊下」をなくして部屋を広く

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「65歳からのリフォーム」の基本は、家の中の危険を取り除いて、高齢者など介護される人が安心・快適に暮らせる空間づくりをすることです。ただし、高齢者の視点だけでリフォームすると、「お世話をする人の動けるスペースが狭い!」なんてことにもなりかねません。そこで今回は、住宅やホテルなどのプランニング・デザイン・室内計画のコンサルタントとして活躍する小川千賀子さんに、介護される人にも介護する人にも快適で便利なリフォームのコツを教えてもらいました。

玄関 ――出入りしやすく、動きやすく

1.少し余裕のある空間づくりを目指す
車いすを乗り降りするスペースは考えても、介護をする人のスペースは見落としがち。高齢者と介護者が動くスペースを考え、少し余裕のある空間づくりを目指しましょう。

2.車いすやシルバーカーの収納スペースを確保
お出かけや買い物の際にシルバーカーを使用している高齢者も多いと思います。外出時に使うシルバーカーや車いすの収納スペースが玄関周りにあるととても便利です。

3.上がりがまちの段差はなくすか、最低限に
一般的な住宅の玄関は三和土と上がり框の段差がありますが、高齢者にはこの段差がネック。段差をなくしたり、最低限にすることで、楽に出入りできる構造にしましょう。

4.腰を降ろせるベンチや椅子を用意
靴を履いたり脱いだりする際は、腰を降ろしてするとぐっと楽になります。そのためのベンチや小さな椅子を玄関に用意しておくとよいでしょう。

5.玄関の照明は人感センサーに
杖をついたり、車いすに乗ったりしながら電気のスイッチを押すのは意外と大変。介護する人も手がふさがっていることが多いため、玄関の照明は人感センサーにすると便利です。

廊下 ――広く、明るく、体にやさしく

1.廊下の幅は広めに
車いすでもスムーズに行き来できるように、また歩行介助する人が無理なく動けるように廊下の幅は広めにしておきましょう。さらに、両脇にカウンターがあって、その下が薄型の収納になっていたらとても便利。食品や生活用品のストック場所として使え、カウンターの上は手すり代わりに手をかけることもでき、手すりだらけの廊下になることを防ぐこともできます。

2.手すりの位置を想定して下地を入れる
いまは手すりが必要でなくても、将来に備えて手すりの位置を想定し、壁の中に下地を入れておくとあとあと便利です。手すりの設置位置を決める際は、必ず自分の手で体を支えるシミュレーションをしましょう。右利きだけど左手のほうが支えやすいなど、意外なことに気づくことがあります。

3.床材は滑りにくく、クッション性のあるものを
高齢者の転倒は寝たきりにつながる重大な事故になりかねません。廊下の床材は滑りにくく、たとえ転んでも大きな怪我につながらないようにクッション性があるものを選ぶと安心です。

4.人感センサー照明や足元灯を活用
採光が取りにくい廊下は暗くなりがち。転倒の危険性をできる限りなくすため、照明や足元灯を設置しましょう。人感センサーで明るくなる足元灯をつけておくと、夜中にトイレに行くときなどに便利です。

また、「廊下をなくす」という選択肢も考えてみてもよいかもしれません。「たとえば、夫婦2人だけの暮らしになったら、個室は多く必要ありませんよね。考えようによっては、視線を隠す工夫をして、大きな大きなワンルームで過ごすのもよいのではないでしょうか」

リビング ――適度な距離感が夫婦円満の秘訣?

1.日当たりや風通しに配慮
高齢になってくると外出する機会も減ってくるため、1日の大半を過ごすだろうリビングは、心地よいお気に入りの空間にしたいもの。明るい日差しと、さわやかな風が感じられる快適な空間づくりを目指しましょう。

2.個人が趣味を楽しみながら、互いの気配が感じられる空間に
定年退職し、夫婦2人の時間が増えるようなら、趣味などを楽しむ個人のスペースを持ちつつ、互いの気配が感じられ安心できる空間づくりもオススメと小川さん。
「たとえば、奥様はソファで編み物をして、ご主人はティーテーブルでパソコンを開いてと個人が趣味を楽しむコーナーがそれぞれありながら、お互いの気配は感じられるような空間にするのもよいと思います。べったり一緒でもなく、かといって1人きりでもない、適度な距離感があるリビングは夫婦円満の秘訣かもしれませんね」

キッチン ――「私のキッチン」「俺のキッチン」もあり?

1.座って作業できるキッチンがベスト
高齢になると、長時間の立ち作業はとてもつらくなります。年をとっても使いやすいキッチンにするため、シンク下をオープンにして、座りながら作業ができるキッチンを検討してみましょう。

2.スイッチや収納は座って手の届く位置に
年を重ねると、棚の奥にしまってある食器やお鍋をとるために背伸びをしたり手を伸ばしたりする動作がしづらくなってきます。スイッチや収納などは、座って手の届く位置に配置することを検討しましょう。

3.キッチンの通路幅はゆったり確保
夫婦で、あるいは子どもや孫と一緒に料理をつくることができるよう、キッチンの通路幅は広くすることを考えましょう。

4.IH式に替えるなら早い段階から検討を
「70代になってからIHに替えたら、感覚が分からなくてまったく使いこなせていないという話も聞きます」と小川さん。安全面を考慮してIH式に替えるなら、早いうちから使い方に慣れておくことが重要です。

もう1つ、小川さんが提案するのは「小さなキッチンを2つつくる」こと。生活者の方たちに介護リフォーム&家づくりに関する座談会をしてもらった際、ある女性から「キッチンを2つつくってほしい。主人のキッチンと私のキッチン」という意見が出たのだそうです。

「ご夫婦2人の生活になって、奥様は朝昼晩と食事の用意に追われるようになったそうです。奥様が不満をもらすとご主人が自分で簡単な料理をつくって食べてくれるそうですが、ご主人が使った後はキッチンが汚れていたり、調味料の置き場所が変わっていたり……。

だから、ご主人と自分のキッチンを2つつくって、それぞれ好きなように料理ができるようにしたいということでした。そして、意外にもご主人もそうしたいとおっしゃったんです。たとえば、朝食は奥様がつくる、昼食はご主人がつくる、夕食は好きな料理を一品ずつつくって食事を楽しむ。そんなふうに、夫婦2人でそれぞれのキッチンで並んでお料理をするのも素敵だと思いますよ」

お話を伺った人

小川千賀子さん

一般社団法人 日本インテリアアテンダント協会 理事長
株式会社デザインクラブ 代表取締役社長
ディベロッパー、リフォーム会社勤務などを経て、1998年に株式会社デザインクラブを設立。2013年、一般社団法人 日本インテリアアテンダント協会設立。ユーザー側の立場で専門家とつなぐ役割を持つ「インテリアアテンダント」を職業として確立し、ユーザーに介添することで家づくりにおけるトラブルを未然に防ぎ、住まいづくりをもっと楽しくすることを目指す。著書に『女性の生活目線でわかった! 99%失後悔しない「65歳からのリフォーム&家づくり』(日本文芸社)、『住まいをもっと楽しくするイマドキの方法』(カナリア書房)などがある。

文=桑原奈穂子 撮影=加々美義人 写真=shutterstock

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