回遊動線が原因で落ち着かない家に
「家の中にも、カフェのようにくつろげる空間は必要」と飯塚さん。
回遊式間取りを取り入れた住まいで暮らし始めて、意外と多く出てくる不満が、「落ち着かない」というものです。ただでさえ会社や学校で多くのストレスがかかるのに、家でも「何となく落ち着かない」というのでは、住まいの役割を果たしていません。
これは、間取りを考えるときに、快適性より動線を優先したことが原因です。リビングなどの居室を回遊動線として取り入れた結果、「ゆっくりコーヒーを飲んでいたいのに、家族が通るたびに落ち着かない……」という落とし穴にハマってしまうのです。二世帯で同居されている家庭などはなおさら、くつろげないでしょう。
「本来、住まいとは、快適で魅力的なものでなければいけませんし、私自身、それを一番に考えて仕事をしています」と飯塚さん。動線ありきで考えると、こうした快適性を奪われやすいので、動線よりもほっとできる空間作りを優先して考えることが大事だそうです。
窓辺に座れる段差をつくり、そこを「たまり」とした施工例(飯塚豊さん提供)
「人々がカフェに足を運ぶのは、落ち着いてコーヒーを飲む時間が心地いいからですよね。そんな、ちょっとだけ本を読みたい、ちょっとだけ昼寝したいなど、自分だけの時間が欲しいといったニーズを叶えてくれる家での空間を“たまり”と呼んでいます。
代表的な例が縁側で、私が設計した家でも、窓辺にちょっと腰をかけられる段差を設け、くつろげる場所を作りました。そんな人がほっとできる空間(たまり)作りを第一に考え、その上で動線に意識を向けるといいでしょう」
また、落ち着かないもう一つの原因として、複数の回遊動線を居室に作って複雑化し、忍者屋敷のようになってしまうことが挙げられます。
「動線=人通りが多くなる」なので、落ち着かない空間になるのは明白です。これも“たまり”より動線を優先した結果であり、動線を作ることで面積も取られてしまうので、家が狭くなってくつろぎにくくなります。
回遊動線と「たまり」を両立させるプランのコツ
では、くつろげる空間(たまり)を考えた上で、快適性を損なわない回遊動線を作るコツは何でしょうか。1つは、「リビング・ダイニングは内側を回るようにすること」です。
リビング・ダイニングは部屋が大きいだけに、ついついダイナミックな回遊を考えてしまいますが、そこがプランニングの落とし穴。部屋の真ん中に、存在を主張するかのようなアイランド・キッチンを置いても邪魔なだけです。
「回遊式間取りは本来、動線を効率化するためのものです。前回もお話ししたように、使いもしない動線や、大回りせざるを得ない動線を作ったりしないよう、注意が必要です。リビング・ダイニングを回遊動線に組み込むなら、なるべく内側を回るようにするか、片側に集約します。そうすれば、動線から外れた場所がたまりになります。
ところで動線には、お客様も使う「表動線」と、家族がサービス用に使う「裏動線」があります。キッチンは本来、家族の動線(裏動線)ですが、使用頻度が高く、滞在時間も長いため、行き止まりの動線とせずに、裏と表の動線をつなげて回遊させれば使い勝手がよくなります。
キッチンをリビング・ダイニングの片側に寄せれば、表動線と裏動線が生まれ、ゆったりとした「たまり」を確保できます。この事例では、収納を中心に家事室と脱衣室も回遊動線になっています。
2つ目は、「やたらと居室を回遊させないこと」です。2つ並ぶ居室の壁を取り除いてわざわざ通らなくてもいい出入り口を作っても、次第に使われなくなります。それに、動線に組み込まれた居室は人の出入りが多くなり、くつろぎにくくなります。こうしたコツを抑えつつ、回遊動線をどう取り入れるか考えてみましょう。
また、1つ目のポイントとして挙げた「内側を回るようにすること」は、リビング・ダイニングに限らず、あらゆる回遊動線を考える上で欠かせない着眼点です。飯塚さんも、「回遊式間取りの鉄則は『小さく回る』」と話します。
「大きく回っても、移動距離が長くなるだけで、回遊式にする意味が薄れてしまいますからね。キッチン、水まわり、収納などは、可能な限りコンパクトに回遊させるのが秘訣です」
(第3回に続く)
文◎高島三幸 撮影◎神出 暁 図面提供◎飯塚 豊
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