ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第40回】窓にまつわる理想と現実(4)

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鈴木:その昔、本気でガーデニングをやりますという若いご夫婦がいらして、その家は竣工直後から奥さんが平日の夜に庭いじりをされていた。でも何年かして、子供が生まれて子育てが忙しくなると、ガーデニングの熱も一時的に冷めてしまったそうだよ。

藤山:子育てと庭いじりの両立は厳しそう。

鈴木:お金に余裕のある家なら、造園会社に頼んで管理してもらうという手もあるけど、家づくりの段階で建物本体に大金をつぎ込んでしまった人は、そういう余裕も当然ない。苦肉の策で、「いまはお金がないけど、そのうちガーデニングを始めたいと思っているので、庭は土だけ入れておいてください」といわれる家があるけど、そういう家は1年後うかがっても、たいてい土のままだね。

藤山:土というか、雑草が生えているでしょ?

鈴木:そうそう。「あぁ、何もしないうちに雑草が生えてきたな」って思いながら庭を見ているのだろう。

藤山:「雑草生えし庭をただ見る」。ほとんど枯淡の境地(笑)。

鈴木:こんなことなら、庭なんかやめて最初からコンクリートを打っておけばよかったって、みんな後悔する。

藤山:あんなに庭を眺めたかったのに。

鈴木:年配の人はそれをよく分かっているから、60代くらいで自宅を建て替えるという人は、ほとんどが庭にコンクリートを打ってくれと頼まれる。歳をとると足腰が弱って草むしりも大変だからって。寂しい話だけど……、でもそれが現実。

藤山:光と風の神話にもう一つ、庭もつけ加えておかないといけませんね。

鈴木:でも、それを言い始めたら、家づくりに夢も希望もなくなってしまう(笑)。

藤山:現実的すぎてもダメですか。

鈴木:現実だけを見ればまったくそのとおりだけど、家づくりというのは一方で、「夢と甲斐性の産物」だからね。夢を追いかけているから楽しくやれるという部分が大きい。たとえ近い将来、その夢が破れると分かっていても、夢を追わずにはいられないわけ。

藤山:なるほど。夢と甲斐性の産物ね……。

鈴木:だから設計者としては、現実的な部分をしっかり押さえつつ、夢の部分をどう実現していくかに頭をしぼらなきゃならない。少しでもラクに庭いじりを楽しめるようにするにはどうすればよいか、それを考えてあげないと。

藤山:鈴木さん、いい人だな(笑)。

鈴木:この前できたばかりの家は1坪ちょっとの屋上があるのだけど、ご主人がそこに露天風呂をつくりたいという夢をもたれていた。

藤山:ほう。

鈴木:簡易組み立てのドラム缶風呂みたいなものが、一般にも売られているじゃない?それを屋上に置いて、空を眺めながら風呂に入りたいと。おそらく、露天風呂を楽しめる時間は年に1回あるかないかだと思う。本人もそれをよく分かっている。でも、「どうしてもやりたいです!」と。そこまで決意が固ければ逆に安心だと思って、ガスのコンセントや排水管をひととおりつなげておいた。そのうち飽きるかもしれないけど、新築のときの酔狂な思い出として残ればそれでいいじゃない。そういう「無駄」をあえてやるというのが、もしかしたら家づくりの最高の楽しみ方なのかもしれない。一切の無駄を省いて、使い勝手のよい建物ができれば万々歳……ではないんだな、これが。

藤山:ええ。

鈴木:やらなきゃよかった。でも、やらずにはいられなかったというのが人間の本質なんだから。

藤山:なるほど。いま、分かりましたよ。「暑いのをガマンするのはまだ笑っていられる」とおっしゃった奥様こそ、本当に家づくりを楽しまれたプロなのでしょうね。

(おわり)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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