ひとの家見て、わが家を直せ。

会員限定

【第39回】窓にまつわる理想と現実(3)

空間
窓まわり
関心
インテリア悩みリフォームレビュー

鈴木:住宅のプランニングをしていて、いつも難しいなと感じるのはリビングと窓の関係。お客さんの要望としては、リビングの南側に大きな掃出し窓を付けて、そこから庭を眺めたい。それもただの庭ではなく、見て楽しめる、季節を感じられる庭をリビングから味わいたいという夢がある。

藤山:分かります。

鈴木:でも、この「庭を見て過ごすひととき」に大いなる計画倒れがひそんでいて、実際に住み始めたら庭なんてほとんど見ずに、テレビばっかり見ている(笑)。

藤山:9:1でテレビでしょ?

鈴木:結果的に。では、テレビをどこに置けばよいかという問題が出てくる。いまのテレビはどんどん大型化しているから、リビングの隅に斜めに置こうとすれば、思った以上にスペースを取られる。なので、大きな窓は半分くらいにして、もう半分は下が壁面になる腰窓に変更しませんかと提案するのだけど……

藤山:壁面が増えればテレビやキャビネットなども置けますからね。

鈴木:だけど、「リビング南側の窓=全面掃出し窓」という信仰は根強い。

藤山:住宅雑誌を見ても、ハウスメーカーのパンフレットを見ても、リビングを紹介する写真って、「休日にくつろいでいる4人家族」みたいな絵が多いじゃないですか。でも、その写真のように過ごしている時間がどれくらいあるか考えてみると、おそらく1週間のうち、数時間あるかないか。

鈴木:日曜日の午前中くらいかな。

藤山:その一瞬を目指してリビングのフォーメーションを固めてしまえば、どこか実生活と乖離した、夢だけでつくられたプランになるおそれがある。

鈴木:とはいえ、建売住宅をはじめとするほとんどの住宅が、判で押したようにリビングの南側に大きな掃出し窓を設置する。それがうまく機能する家ならいいのだけど……。

藤山:収納や片づけという観点では、鈴木さんの著書(「片づけの解剖図鑑」エクスナレッジ刊)で、「住宅に必要なのは窓ではなく壁なんだ」と強調されていますよね。特にリビングは、窓と壁のバランスが大切になる。大きな窓を付けると、夏暑くなりやすいだけでなく、モノを置く壁面も失ってしまう。

鈴木:あの本に書いた「壁面の量が収納量を決める」という解説は評判がよくて、読者からも「目から鱗でした」というお手紙をいただくことが多い。それだけ、モノを置くには壁が必要という条件は、意外と忘れがちなことなんだと思う。

藤山:新築の打ち合わせでは、そういう話をされるわけでしょ?

鈴木:しますね。「大きな窓を付けてもよいですが、テレビを置く場所がなくなりますよ」とか。そうすると、「うーん、テレビかぁ。そうだなぁ……」ってそこで1回いきづまる。「じゃあ、テレビはここに置くからここが壁になって、そうするとソファがこっちにきて……」なんてやっていると、「あっ、庭が全然見えない」ってもう一回行きづまる(笑)。

藤山:実際、そうやってあれこれ悩まれたお客さんは、数年後どんな感じですか?庭の管理もしっかりされています?

鈴木:いまは、共働きの家庭がほとんどでしょ。お父さんもお母さんも一生懸命働くんだ。そうなると、庭なんてかまっていられなくなる。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)