ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第37回】窓にまつわる理想と現実(1)

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藤山:窓の大きな家って、人気がありますよね。鈴木さんのところにいらっしゃるお客さんも、「窓の大きな家にしたい」と要望されませんか?

鈴木:窓の大きな家にしたいと言われる人は多いです。

藤山:なぜでしょう?

鈴木:それはやはり、明るさとか開放感とか……

藤山:窓が大きいと部屋が明るくなって……

鈴木:外の眺めもよくなる。部屋が広く感じられて気分がいい。壁に囲まれた家とは世界が変わるしね。昔、こんなことを言われたお客さんがいましたよ。「窓が小さくて快適な家より、夏暑くても窓の大きな明るい家のほうがいい」。60代の奥様でしたが、小さいころに育った家が昔ながらの日本家屋で、日中でも家の中が暗い。なんだか気が滅入ってずっと居心地が悪かったって。だから、新しく家を建てるなら、絶対に白くて明るい、大きな窓がたくさんある家にしたいと思っていたと。

藤山:子供のころの反動で。

鈴木:でも、大きな窓をたくさん付けたら、夏は暑くて大変ですよと忠告したの。そうしたら、「暗いのをガマンするのはつらいだけだけど、暑いのをガマンするのはまだ笑っていられるからそのほうがいい」って。

藤山:大したものです。

鈴木:おそらく、ボクらより上の世代の人って、日の光に対する憧れが人一倍あるんだよ。古民家とまではいわないけれど、いわゆる昔ながらの日本家屋に見られる深い軒とか縁側空間、谷崎潤一郎のいう「陰影礼賛」みたいな光と影の世界って、実際そういう家に住んでいた人にとっては、「そんなことはどうでもいいから、もっと明るい家にしてくれ」と(笑)。「もっと光を」が本音なんだね。

藤山:谷崎よりゲーテだ(笑)。

鈴木:いまの若い世代の人でも、住宅密集地にある日当たりの悪い一軒家に育ったとか、生まれてこのかたずっとマンション暮らしとか、そういう人は、大きな窓をほしがるような気がする。それまでの鬱憤を晴らすかのように。

藤山:明るい家と暗い家、どちらがよいかと聞かれれば、それは一も二もなく明るい家でしょうが、話はそこで一件落着とはいきませんよね。明るくするにもいろいろな方法があって、いまの奥様のように窓の大きな家をリクエストされたら、そのぶん夏の暑さ対策を考えなくてはならない。実際、どうされています?

鈴木:基本的には軒や庇で日差しをカットするしかないけど、それ以前に、窓がどちらの方角を向いているかで対策が全然変わるじゃない?完全に南向きなのか、ちょっと東南向きなのか、西南向きなのか……。むろん、西側に近づけば近づくほど条件は厳しくなって、どんなに軒を深くしても意味がなくなる。

藤山:西日が直接差し込んできますからね。

鈴木:そうなると、大きな窓を付けること自体がナンセンス。設計者としては、「明るい家にするほかの方法を考えますから、大きな窓はおやめなさい」と進言するほかない。

藤山:窓を大きくする以外の方法を探る。

鈴木:普通はそうなるよね。

藤山:でも、普通じゃない設計をしてしまった家は多いでしょう。住宅街を歩いていると、たまに設計事務所が手がけたと思しき窓の大きな家が目にとまりますが、私などはついスマホの方位磁石のアプリを立ち上げて確認しちゃうんです。<窓の方角はどっちかな?>って。たまに、ちょっと西向きに大きな窓をつけている家があって、他人事ながら勝手に心配したりしている。

鈴木:「中の人、暑くないかな」って?分かるよ、それ。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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