ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第68回】トイレの本懐(4)

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鈴木:庭がいい例だよ。いくら都市部の狭い庭といっても、庭全体をコーディネートしなさいといわれると、素人はみんな困る。でも、トイレくらいの広さだったら誰でも空間全体を自在にコーディネートできる。トイレって家全体のインテリアを検討するための「練習台」とでもいうのかな。箱庭療法的な、何かを始めるきっかけになりやすい場所でもある。トイレがうまくいけば、それで自信がついてほかの部屋のインテリアももう少しいじってみようかな、となる。

藤山:飲食店の良し悪しはトイレを見れば分かるといいますよね。そこに住んでいる人の本質も、トイレを見れば分かる。住む人のセンスが露見してしまう。意外と侮れないですね、トイレって。

鈴木:来客が使うかもしれない、ある種の客間でもあるのだから、油断は禁物。

藤山:たしかに。

鈴木:そういえばさ。

藤山:はい。

鈴木:いまは男でも座って小便をする人が増えているというじゃない。

藤山:なんですかいきなり。

鈴木:2割くらい?

藤山:さあ、もっと増えているんじゃないですか。

鈴木:そういう統計ってあるのかな?

藤山:それこそ、リクシルさんがお持ちなんじゃないですか。

鈴木:じゃあ今度うかがってみたいね、トイレにまつわる最新統計。

藤山:それは面白そう。逆に鈴木さんのほうから、何か提案はないんですか?こういうトイレをつくったら売れるのではないか、みたいな。

鈴木:私ごときがリクシルさんに言えるようなことは何もございません(笑)。

藤山:一つくらいあるでしょ。

鈴木:いや、私が気づいていることなんて、もう何年も前に先方は気づいているよ。

藤山:そうですか。

鈴木:あ。

藤山:ありました?

鈴木:一つあるとすれば、きょうの話じゃないけど、トイレの事例写真に「狭いトイレの場合」も掲載してもらえると助かるね。

藤山:広くてきれいなトイレばかりではなく?

鈴木:そう。トイレの写真が、広くてきれいなものになるのは仕方ないと思うけど、現実にはもっと狭いトイレが世の中の大半じゃない?そんな狭いトイレでも、「こうすればもっと気分が上がるトイレになりますよ」みたいな提案をしてもらえると、設計者としては面白いし参考になる。あ、あと……。

藤山:まだありますか。

鈴木:ユニットバスはあるけど、ユニットトイレがないのはなぜなんだろう。

藤山:建築現場に置くような簡易トイレではなくて?

鈴木:そう。トイレを空間丸ごと売るみたいなユニットトイレ。1坪のユニットに飾り棚やら手洗い器やら、気分アップの要素が何から何までセットで収まっているの。

藤山:これさえはめ込んでおけば、ちょっとセンスが微妙な工務店の自社設計でも、お客さんが大満足するみたいなトイレという意味ですね。

鈴木:天井がドーム状になっていて、間接照明の反射がトイレ全体にやわらかく広がってきれいとか、そういうの。在来工法の工事では難しいけどユニットなら簡単にできるじゃない。あ、でも現実的には開口部の設け方とか、いろいろ問題があるかもしれない。うーん、どうなんだろうね?

藤山:いろいろ考えたわりに、リクシルさんにうかがったら、ユニットトイレがない理由をあっさり告げられそうで怖いです。

鈴木:だから、私ごときが……って言ったでしょ。おそらくちゃんとした理由があるはずだよ。

(おわり)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

 

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