鈴木:みんなカレンダーをにらみながら、今後の日程とか練るんだろう。そろそろ立春か……とか。
藤山:ああ、「赤口」ってなんて読むんだっけ……とか。
鈴木:「今月のことば」をじっくり読み込んでみたり。
藤山:カレンダーの話はいいです(笑)。
鈴木:要は何が言いたいかというと、トイレをかわいらしくコーディネートしたいとか、ちょっと着飾ってみようとか、そういう願望はどの家庭にも共通してあるのだということ。その手のささやかな願望を、新しく家を建てるタイミングでより伸び伸びと実現できる環境を整えて あげると、新居のトイレはとても良い感じに着地する。トイレに着飾れる余地をつくってあげると、「待ってました」とばかりに飾りつけが始まるんだから。
藤山:トイレって、つい何かを飾りたくなりますもんね。
鈴木:だからこそ、そこを見誤った設計はお客さんの期待を裏切ることになるわけ。以前、とあるホームページにトイレのリフォーム事例が掲載されていたの。ビフォーとアフターの写真があって見比べると、便器が新しくなり、塩ビの床がコルク調の床に変わり、壁のクロスは真っ白になり、いかにも新しいトイレですって雰囲気を漂わせていた。
藤山:ええ。
鈴木:でも、床の隅っこに小さな観葉植物が置いてあるわけ。わざわざ薄暗くて日の当たらない場所に。なぜかというと、リフォーム前はその観葉植物を窓枠に置けたのに、リフォームのとき窓枠の出っ張りをなくされて、置き場所がなくなったからなんだね。設計者としては、窓枠が出っ張っていると格好悪いと思ったのかもしれない。でも、そこは住む人にとって大事な装飾用のスペースだったの。
藤山:それをあっさり削除してしまった。
鈴木:アフターの写真を見て、床の観葉植物に気づいたとき、「ああ、このトイレはリフォームを失敗したな」と思った。トイレの機能更新しか考えていなかったのだから。
藤山:むしろ、リフォームのときこそ、緑をたくさん置けるような棚をつけられるチャンスだったのに。
鈴木:そうだね。これ、勘違いしている人が多いんだけど、何かを飾りたいと思ったら、大きなスペース、広いスペースをつくるより、小さな、狭い、ニッチみたいなスペースをたくさんつくったほうが使い勝手がいいんだよ。
藤山:トイレの窓枠なんて、まさにそんな場所ですよね。
(つづく)
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