ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第67回】トイレの本懐(3)

空間
トイレ
関心
悩みリフォームレビュー

鈴木:新築やリフォームの打ち合わせで、いろいろな家の「現状のトイレ」を覗かせてもらう機会があるけど、どの家もだいたい似たような雰囲気だね。

・紙巻機にカバー、便座にカバー、ふたにカバー、トイレマットを敷く。色をそろえて4点セットで

・窓枠にサボテン系の植物や趣味の小物

・手洗い器の中に透明な色のついた石みたいなもの。あるいは植物のふさふさ

・お香を焚く

・壁にカレンダー

藤山:まさに、「トイレあるある」。でもなんで、トイレってカレンダーを貼りたくなるんですかね?

鈴木:それも、銀行がくれたような「四季折々の富士」みたいな壮大なやつでしょ。

藤山:捨てるには忍びないけど、かといって他に行き場がないからとりあえずトイレに貼っとけみたいな扱いですよね。

鈴木:みんなカレンダーをにらみながら、今後の日程とか練るんだろう。そろそろ立春か……とか。

藤山:ああ、「赤口」ってなんて読むんだっけ……とか。

鈴木:「今月のことば」をじっくり読み込んでみたり。

藤山:カレンダーの話はいいです(笑)。

鈴木:要は何が言いたいかというと、トイレをかわいらしくコーディネートしたいとか、ちょっと着飾ってみようとか、そういう願望はどの家庭にも共通してあるのだということ。その手のささやかな願望を、新しく家を建てるタイミングでより伸び伸びと実現できる環境を整えて あげると、新居のトイレはとても良い感じに着地する。トイレに着飾れる余地をつくってあげると、「待ってました」とばかりに飾りつけが始まるんだから。

藤山:トイレって、つい何かを飾りたくなりますもんね。

鈴木:だからこそ、そこを見誤った設計はお客さんの期待を裏切ることになるわけ。以前、とあるホームページにトイレのリフォーム事例が掲載されていたの。ビフォーとアフターの写真があって見比べると、便器が新しくなり、塩ビの床がコルク調の床に変わり、壁のクロスは真っ白になり、いかにも新しいトイレですって雰囲気を漂わせていた。

藤山:ええ。

鈴木:でも、床の隅っこに小さな観葉植物が置いてあるわけ。わざわざ薄暗くて日の当たらない場所に。なぜかというと、リフォーム前はその観葉植物を窓枠に置けたのに、リフォームのとき窓枠の出っ張りをなくされて、置き場所がなくなったからなんだね。設計者としては、窓枠が出っ張っていると格好悪いと思ったのかもしれない。でも、そこは住む人にとって大事な装飾用のスペースだったの。

藤山:それをあっさり削除してしまった。

鈴木:アフターの写真を見て、床の観葉植物に気づいたとき、「ああ、このトイレはリフォームを失敗したな」と思った。トイレの機能更新しか考えていなかったのだから。

藤山:むしろ、リフォームのときこそ、緑をたくさん置けるような棚をつけられるチャンスだったのに。

鈴木:そうだね。これ、勘違いしている人が多いんだけど、何かを飾りたいと思ったら、大きなスペース、広いスペースをつくるより、小さな、狭い、ニッチみたいなスペースをたくさんつくったほうが使い勝手がいいんだよ。

藤山:トイレの窓枠なんて、まさにそんな場所ですよね。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

 

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