鈴木:結局、お子さんがいらっしゃる家庭は、どうしても子供中心の家づくりになるじゃない。子供部屋はつくるけど、自分の部屋はつくれない。自分の部屋がほしいなんて、とてもいえる雰囲気ではない。奥様のほうが強いから(笑)。
藤山:それでも、トイレに入れば、その時間は唯一そこが自分だけの部屋になる。
鈴木:そうだね。
藤山:お父さんは一人になりたいわけか。
鈴木:だって、あるお父さんなんか、家に帰ると奥さんから子供の話、学校の話を聞いてくれと迫られるんだけど、日中、会社でさんざん人の話を聞いているから、もう何も聞きたくないんだって。だけど、「あ、そう」なんて適当な返事をするとキレられるから、とっとと寝室に逃げ込むらしい。そしたら奥様が追いかけてきて、「あなた、ヒマなんだったらベッドの上に積んである洗濯物くらい畳んでよ」ってやっぱりキレられる(笑)。それがツライと。
藤山:鈴木さんの回想に出てくるお父さんって、いつも悲惨な状況なんですけど(笑)。
鈴木:みなさんがみなさんそうではないけど、そういう人はたしかに多い。
藤山:だからせめてトイレだけでも……。
鈴木:自分の書斎を確保できた人からは、トイレを云々なんて話は一切出ないからね。本当に苦肉の策なんだよ。
藤山:お風呂でくつろぐという方はいらっしゃいませんか?
鈴木:そういう人はたくさんいらっしゃるけど、お風呂の場合、露天風呂は別にして、設計側でやれることは特にないわけ。風呂板さえあれば本だって読めるし……。トイレだって、本を持ち込めば本棚なんていらないという話もあるけど、それでも本棚を付けたいという人は、たいてい若いときから趣味が豊富で、いろんなことに興味があるのに、新しい家には自分の部屋が与えられないという人だね。
藤山:本棚に自分の本を詰め込むことで、トイレをマーキングするみたいなことかな?「あそこはお父さんのゾーンっぽいよ」と家族に知らしめる。
鈴木:そこまで強い意志ではないと思うけど……。でも、娘さんなんかははっきりと「お父さんが使うトイレは使わない」っていうよね。奥様からは「トイレに新聞を持ち込まないで」と釘を刺される。長居されるとトイレが臭くなりそうだからって。
藤山:お父さん、ホントかわいそすぎる(笑)。がんばって働いているのに。
鈴木:だけど、奥様に「私だって働いているのよ」といわれるとぐうの音も出ない。
藤山:そりゃ、ごもっともです。
(つづく)
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