ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第65回】トイレの本懐(1)

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悩みリフォームレビュー

藤山:住宅のなかで、トイレほど虐げられている部屋はありませんよね。

鈴木:なんで?

藤山:だって、ほかの部屋から必ずシワ寄せがくるじゃないですか。リビングをもう少し広く取りたいとか、vその手の要望を満たそうとすると、トイレは必然的にギリギリの広さにまで詰められる。

鈴木:たしかに設計段階ではそうだね。バリアフリー用の手摺を付けるなら別だけど、通常は最小限の広さが確保できればそれで良し、だからね。

藤山:鈴木さんの著書(『片づけの解剖図鑑』エクスナレッジ刊)に「トイレは少し広めにつくっておくと、収納スペースとして重宝する」という話が出てきますが、実際、戸建住宅の図面を見ていて、そんな気の利いたトイレに出くわすことなんてめったにありません。どの家もやっぱり必要最小限。

鈴木:だろうね。特に都市部の場合は。

藤山:鈴木さんはトイレを設計する際、あらかじめ基本仕様みたいなものを決められているのですか?

鈴木:それはないかな。ケースバイケース。大きな家であれば、なるべく幅を広く取りたいとは思っているけど、現実にはなかなか……。それこそいろいろな部屋からのシワ寄せがきて、トイレには常に厳しさがつきまとう。

藤山:地方の戸建てでも、トイレが広い家って意外とありませんよね。敷地は100坪近くあるというのに。

鈴木:それは設計者の頭の中に、そもそもトイレを豊かな空間にしようという発想がないからでしょう。手洗い器はもちろんのこと、飾り棚をつけたり、窓からの眺めを良くしたりという工夫は、やろうと思えばいくらでもできるのだから。

藤山:いわゆる「デザイナー住宅」に多いのですが、スリーインワンの水廻りってありますよね。トイレと洗面室と浴室がワンセットになっている、プライバシーがゆるめの空間。敷地が狭いケースでは面積を稼ぐために、スリーインワンを提案されることもあったりします?

鈴木:たまに半信半疑で提案することはあるけど、まず採用されない。だって、不便だもん。スリーインワンの水廻りを家族全員で使うなんて、考えただけで面倒じゃない?スリーインワン形式の水廻りは米国の住宅に多いのだけど、それってもともと、完全なプライベート空間としてつくられるものだからね。夫婦専用のスリーインワン、子供専用のスリーインワンに分かれていて、寝室の隣、子供部屋の隣にそれぞれ付属させることが多い。そんなマネ、日本の普通の住宅ではとてもできないでしょ。

藤山:ということは、米国人が日本の狭小住宅のスリーインワンを見たら、腰を抜かすかもしれない。

鈴木:「おまえら、家族全員で使ってんのか!」って(笑)。

藤山:なんか、日本人として面目ないです。

鈴木:だから、どだい米国式は無理なのだから、狭いなら狭いなりに気分をどうやって上げていくか。それを考えていくのが日本のトイレの進むべき道じゃないかな。

藤山:やはり、トイレにも気分アップの要素が必要ですか?

鈴木:そりゃもう。トイレに限らず、どの部屋にも。

藤山:トイレの場合はどうするんです?

鈴木:月並みだけど、飾り棚を付けるとか本棚をつくるとか。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

 

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