

藤山:ところで素朴な疑問ですが、脱衣室で脱いだ衣類って、普通、どこにどう入れていくものですか?
鈴木:藤山さんの家はどうしてるの?
藤山:うちはゴミ箱に入れてます。
鈴木:はぁ?
藤山:上に丸い穴のあいたふた付きの角形ゴミ箱を脱衣カゴ代わりに使っているんです。脱いだ衣類は、上の穴からどんどん中に突っ込みます。ぱっと見は長方形のゴミ箱にしか見えないから、ビジュアル的にきれい。ちなみに、キッチンなどで本当にゴミ箱として使っているゴミ箱もそれと同じものです。
鈴木:ほう、それはいい手かもしれない。普段、お客さんに「脱いだ服、どうしてます?」と聞くと、脱衣カゴに入れるという家庭はもちろん多いけど、脱いだらそのまま洗濯機に放り込んでいくという家庭もかなり多い。
藤山:ああ、なるほど。
鈴木:ただ、洗濯をするお母さんたちのなかには、洗濯機の中に放り込まれたものを一度外に全部出して、中身を選り分けてからまた洗濯機に投入し直すのがイヤだという人がけっこういる。なので、新しく家を建てるのを機に、その習慣自体を改善したいと要望されることもある。
藤山:そもそも洗濯物というのは、ある程度種類ごとに分けて洗うのが普通なんですかね?
鈴木:分けるのが普通みたいだよ。自分はあんまり分けないけど。
藤山:うちの奥さんもほぼ分けませんね。なんでもかんでもバンバン放り込んでいきます。たまに、脱いだ靴下を1つに丸めた状態のまま洗濯機から仕上がってくることがある。
鈴木:洗濯に迷いがない(笑)。
藤山:そう、竹を割ったような洗濯(笑)。ある意味うらやましいです、その迷いのなさが。
鈴木:そういえば、全然関係ない話を思い出したんだけど。
藤山:いいですねえ、関係ない話。
鈴木:以前設計した家で、脱衣室のそばにトイレをつくらなかった家があったの。ほら、水廻りってだいたい1カ所に固めてつくるから、浴室、洗面・脱衣室、トイレってひとかたまりのゾーンになるじゃない。
藤山:なりますね。
鈴木:でも、その家はプラン上、トイレが少し離れた位置になったの。そしたら、3年目の点検でその家に行ったとき、旦那さんがそっと私に耳打ちするわけ。「実は僕、お風呂に入ろうとして裸になると、かなりの確率でトイレに行きたくなるんです。でも、遠くのトイレまで裸のまま行くわけにいかないから、ついそのまま、お風呂の洗い場でしちゃうんですよねぇ、えへへ」って。
藤山:(笑)
鈴木:奥さんには内緒なんだって。それを聞いて、申し訳ないことをしたなと思ったよ。言われてみれば、風呂に入ろうとする直前、「あっ、ちょっとトイレ行きたい」と思うときってあるよね。そんなとき、トイレがそばにあれば裸のままでも入れる。
藤山:でも、設計段階でそこまで見通してフォローするのは、さすがに無理でしょう。
鈴木:まあね。だからというわけではないけど、特に水廻りの打ち合わせでは、うちの場合、それ以前に手がけたお客さんとのやり取りをなるべくたくさん紹介するようにしている。過去の事例を話すことによって、それまで気づかなかったことに気づいてもらえればいいのかなと思って……。
藤山:水廻りをめぐる個々人の習慣や好みって、想像以上に千差万別でしょう。服を脱いでお風呂に入る間の工程だけでも、人の数だけ“常識”がありそうです。
鈴木:特に洗面・脱衣室は、ほかの家がどう使っているかという情報がほとんど出てこない。だから、設計者を介して他人の家の情報を引き出せるというのは、それ自体、かなり価値のある話だと思う。
藤山:住宅雑誌をめくっても、出てくるのはリビングやキッチンといったオモテ側の話ばかりですもんね。そういう意味では、今日の「ウラ話」が少しでも参考になれば、われわれも何かのお役に立てたかもしれません。