藤山:そもそも、質問にあるようなちょっと現実離れした、生活感のない家というのは、住むためというより最初から見せるためにつくられているような気がします。
鈴木:世の中には自分の家や自分の生活を積極的に他人に見せたいという人が一定数いるからね。
藤山:ええ。
鈴木:普通の人の感覚だと、家というのは日々の生活のために必要なものだけど、なかには誰かに見せるために家がほしいという人もいる。たとえばキッチン一つとっても、かつてうちのお客さんに、「私はべつに料理なんかつくりませんから」という人がいらっしゃった。そういう方は、お惣菜を買ってきてお皿に盛りつけるだけだから、キッチンは汚れないし、キッチンに調理道具などを置かなくても全然不便じゃない。だから「何も置いていないアイランドキッチン」が成立する。
藤山:最近は、キッチンはあるけど料理をまったくしない家庭というのも増えているみたいですね。
鈴木:住まいに対する価値観って、われわれが思っている以上に多様なんだよ。普通の人の感覚では推し量れない部分もけっこうあるから。
藤山:もはや何が「普通」なのかも分かりません。
鈴木:ちょっと前にテレビで見たけど、あるご家庭のキッチンは「お客さんに見せる用」の冷蔵庫と、「実際に使う用」の冷蔵庫を2つ用意されていた。見せる用の冷蔵庫の横に引戸があって、そこを開くともう1つの冷蔵庫が出てくる。そこまでできれば大したものだね。
藤山:質問されているせんママさんは、おそらく「普通」の生活をされている方なんでしょうね。
鈴木:だろうね。だけど、一方で何も置かれていないキッチンに対する憧れもあって、いつもあんなきれいなキッチンで生活できたらいいだろうなと思われているのかもしれない。でも、現実はいま言ったとおり。何かを得る代わりに、何かが「犠牲」になっている。
藤山:当たり前かもしれませんが、鈴木さんのお話をずっとうかがっていると、世の中にはいろいろな価値観をもつ人がいらっしゃるのだなと、シミジミ思いますね。
鈴木:だから、家づくりのお手伝いをさせてもらう側としては、毎日面白く仕事ができるんだよ。
藤山:家づくりの目的は人それぞれ。世の中にはいろいろな家があるということです。これで答えになりましたでしょうか。
(おわり)
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