ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第84回】読者のお悩み相談 結露その他編(4)

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季節悩みリフォームレビュー

藤山:では、最後のお悩みです。

せんママさん

「『渡辺篤史の建もの探訪』に出てくるような、常に片付いた家、何も置かれていないアイランドキッチン、洗面カウンター、収納棚の見えないリビングなどの生活ぶりは本当に実在するのでしょうか?」

鈴木:たしかにそういう家は実在します。ただ、テレビで放映されるときのような状態でいつもきれいに使われているかといわれれば、それはアヤシイ。

藤山:そういう意味では、実在しない?

鈴木:ともいえる。

 

藤山:そもそも、質問にあるようなちょっと現実離れした、生活感のない家というのは、住むためというより最初から見せるためにつくられているような気がします。

鈴木:世の中には自分の家や自分の生活を積極的に他人に見せたいという人が一定数いるからね。

藤山:ええ。

鈴木:普通の人の感覚だと、家というのは日々の生活のために必要なものだけど、なかには誰かに見せるために家がほしいという人もいる。たとえばキッチン一つとっても、かつてうちのお客さんに、「私はべつに料理なんかつくりませんから」という人がいらっしゃった。そういう方は、お惣菜を買ってきてお皿に盛りつけるだけだから、キッチンは汚れないし、キッチンに調理道具などを置かなくても全然不便じゃない。だから「何も置いていないアイランドキッチン」が成立する。

藤山:最近は、キッチンはあるけど料理をまったくしない家庭というのも増えているみたいですね。

鈴木:住まいに対する価値観って、われわれが思っている以上に多様なんだよ。普通の人の感覚では推し量れない部分もけっこうあるから。

藤山:もはや何が「普通」なのかも分かりません。

鈴木:ちょっと前にテレビで見たけど、あるご家庭のキッチンは「お客さんに見せる用」の冷蔵庫と、「実際に使う用」の冷蔵庫を2つ用意されていた。見せる用の冷蔵庫の横に引戸があって、そこを開くともう1つの冷蔵庫が出てくる。そこまでできれば大したものだね。

藤山:質問されているせんママさんは、おそらく「普通」の生活をされている方なんでしょうね。

鈴木:だろうね。だけど、一方で何も置かれていないキッチンに対する憧れもあって、いつもあんなきれいなキッチンで生活できたらいいだろうなと思われているのかもしれない。でも、現実はいま言ったとおり。何かを得る代わりに、何かが「犠牲」になっている。

藤山:当たり前かもしれませんが、鈴木さんのお話をずっとうかがっていると、世の中にはいろいろな価値観をもつ人がいらっしゃるのだなと、シミジミ思いますね。

鈴木:だから、家づくりのお手伝いをさせてもらう側としては、毎日面白く仕事ができるんだよ。

藤山:家づくりの目的は人それぞれ。世の中にはいろいろな家があるということです。これで答えになりましたでしょうか。

 

(おわり)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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