ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第71回】二世帯住宅、完全攻略法 (3)

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藤山:二世帯住宅の打ち合わせって、一般的にはどういう流れですか?

鈴木:最初は子世帯だけか親世帯だけか、どちらかの世帯だけが相談にいらっしゃる。で、互いに感触がよければ、ではご家族全員で顔合わせをしましょうとご自宅にうかがう。そのときは平凡な打ち合わせが進んで……

藤山:平凡な(笑)。

鈴木:ある程度設計が進んで個別の打ち合わせが必要になると、「おじいさん、おばあさんの部屋で早めに決めておきたいことがあるから」って後日あらためてうかがう。するとそこから、ちょびっ、ちょびっと小さな不満が漏れ聞こえ始める。

藤山:どういう不満ですか?

鈴木:いちばん多いのは、「自分たちの部屋の広さについて」かな。子供にはずっと遠慮していたんだけど、本当はもう少し広くしたいって。

藤山:へぇー。 逆に子世帯からは、後出しの不満は出ませんか?

鈴木:不満ではないけど、親の介護の心配を小声でされるよね。親のどちらかが亡くなったあと、残されたほうをどうするかとか。そういうとき、奥様はずっと黙っていらっしゃる。

藤山: 二世帯住宅に限らず、子供としては当然心配になりますよ。

鈴木:それが二世帯住宅の場合、完全分離型で在宅介護することになったら、いったん外に出てから親世帯の部屋に入り直さなければならないから面倒なんだよ。なので、事前に子世帯から親世帯の建物に通り抜けられる間取りにしておいたほうがよいのではないかとか、親が亡くなって空いてしまった部屋はその後どう活用するのがよいかとか、そんなことが気になりだす。

藤山:たしかに。

鈴木:さらに話が進むと、ほとんどの子世帯夫婦に、空いた部屋を賃貸住宅にできないかという野心が芽生える。

藤山:家賃収入の色気が出てくる。

鈴木:あるいは、自分たちがいまの親世帯の建物に移動して、子供が結婚したらいまの建物にそのまま住まわせて、二世帯住宅の代替わりができたらいいのではないかとか。いろいろなシミュレーションが駆け巡る。

藤山:ええ。

鈴木:そこで出てくる新たな問題が、それまで好きにすればいいと思っていた親世帯の部屋に、子世帯が注文を出すようになること。でも、親にしてみれば子供からそこまで口出しされると、あまり気持ちがよいものではない。

藤山:どちらの気持ちも分かりますね。

鈴木:そのへんが二世帯住宅の悩ましいところ。完全分離型といっても、将来のことを考え始めると、完全には分離しきれない、重なり合う部分がどうしても出てきてしまう。

藤山:実際問題、半分だけ賃貸に出すなんて話は夢物語でしょ?

鈴木:ないない。まず100%ないといっていい。でも、人は誰しも、一度は不労所得の夢を見てしまうわけよ。

藤山:私はしょっちゅう見てます(笑)。介護の話ですけど、親御さんのほうは、たとえばどちらかが亡くなり、残された親に介護が必要になると、子世帯に在宅介護をしてもらいたいと望んでいるものなのでしょうか?

鈴木:いや、そんなことはない。どちらかといえば、子供に迷惑をかけたくないと思っている人が大半。自分から進んで施設に入っちゃう。少なくともうちのお客さんは、在宅介護は望んでいないみたい。

藤山:あらためて考えると、二世帯住宅が二世帯住宅として正常に機能する期間って、驚くほど短いですよね。

鈴木:そのとおり。それでも、ある一瞬のベストをねらって設計しなければならないのが二世帯住宅の宿命。非常に短命な設定でつくられる家ってことを、設計する側も建て主も覚悟しておく必要がある。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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