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【第70回】二世帯住宅、完全攻略法 (2)

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藤山:完全分離型といっても、敷地が狭ければやむを得ずどこかを共有するケースもありますよね?

鈴木:とくに都市部の場合だと、階段を2つつくる無駄を省くために、階段だけ共有して上下階で分離して住むというアイデアがある。だけど、上下に分離すると音の問題が起きる。

藤山:どういう?

鈴木:木造2階建てを上下に分けると、ほとんどの家族が下の階に親世帯を住まわせようとするわけ。高齢になると足腰が弱って階段を使うのがつらいだろうからって。でも、そうすると2階の子世帯の生活音が1階に響いてきてうるさい。これが失敗の原因。本当は上の階を親世帯にしたほうがうまくいく。

藤山:なるほど。

鈴木:親世帯は夜早く寝るけど、子世帯は遅くまでテレビを見たりしているじゃない? 小さな子供たちが夜中にドタドタ走り回っている音やその振動は、あまり口には出さないけど、下の階に住んでいる親世帯にはストレスなんだよ。二世帯住宅で気づきにくい問題はそこだね。

藤山:では、親世帯を2階に住まわせる場合、足腰問題はどう解決します?

鈴木:階段の昇降に不安があるなら、エレベーターでも昇降機でもつければいい。面白いのは、これが2階建てではなく3階建てになると、何の迷いもなく親世帯は3階で決まり、となるところだね。

藤山:エレベーターがつくから?

鈴木:そう。親のほうから堂々と「私らは3階がいい」って主張される。3階建てなら、スパッと3階。2階建てなら、悩んで1階。「1階は違うんだけどな~」っていつも歯がゆい思いをする。

藤山:実際、子世帯が2階部分で暮らす家は、その後、危惧したとおり問題が生じていますか?

鈴木:やっぱり、上の音が響くという話はよく聞かされる。そうなると、若夫婦のほうも気を使って、「静かに歩きなさい!」と子供たちを叱ってしまう。すると今度は、子供のほうにストレスが溜まる。絵に描いたような悪循環。どちらにもよくないわけ、2階を子世帯にするパターンは。

藤山:ただ、音って気にならない人はまったく気にならないっていいますよね。とてもセンシティブな問題です。

鈴木:そこも性格の影響するところが大きい。細かいことは気にならないという人なら、どちらを親世帯にしても関係ない。やはり二世帯住宅の成否って、住む人の性格に影響される部分が大きいよ。

藤山:いまみたいな問題点を指摘されると、さすがにお客さんは2階を親世帯にされるでしょ?

鈴木:それが、そこまで言っているのに、「いや~、やっぱり~、親は1階で」って。

藤山:あれっ? そうなんですか。

鈴木:「地震のとき避難しやすいので~」とか、そのあたりを心配されて、最終的に親世帯が1階になることがほとんど。ほかのことでは意見が割れても、この問題については親世帯も同意される。「地面に接していたほうがいい」って。

藤山:地面に接していないと、そんなに不安ですかね?

鈴木:それを言い出したら、マンションには住めないんだけどね。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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