鈴木:基本は完全分離型だけど、仮に共有部分をつくるとしたら、いちばんつくりやすいのは玄関、つぎに水廻り、最後にキッチン。でも冷蔵庫だけは共有しない。そんなふうに段階的に共有部分を増やしていくと、各段階でどのような問題が起きてくるかを教えてあげるわけ。するとだんだん、お客さんの顔が険しくなっていくね。旦那の実家に帰省する奥さんのような顔になっていく(笑)。
藤山:二世帯住宅最大のハードル、人間関係が頭をもたげてくる。
鈴木:親と子の関係は、子世帯の奥様が「息子の嫁」だといろいろ難しい。娘夫婦と建てる二世帯住宅だとそうでもない。あと、息子の嫁でも奥様が「天然」で、何も気にしない人なら意外とうまくいく。さらに、姑さんも「天然」だったら言うことなし。何やってもOK!(笑)。
藤山:そんな強力なカード、普通は2枚も揃いません。
鈴木:だから、完全分離型なんだな。玄関くらい共有しても大丈夫と思うかもしれないけど、玄関って意外と格式とか精神論みたいなものに支配されるから、人によって価値観が全然違う。水廻り、とくに浴室を共有すると、どっちが汚したの? どっちが掃除するの? 誰がいつ使うの?……約束事がいくつも出てきて、「やっぱ共有は無理っぽい」となる。 で、完全分離に落ち着く。「だったら、最初から別々に住んでいるのと一緒じゃない?」「二世帯住宅にした意味はどこにあるの?」って、“分かってない建築家”はつい余計なことを考え始めて、間取りに妙な提案を盛り込んだりするの。
藤山:これまで、建築家発の二世帯住宅の提案って、どのようなものがありましたっけ?
鈴木:うまくいったものは一つもないよ。たとえば、中庭を介して親世帯と子世帯の部屋が互いに向かい合う間取り。実際には、顔を合わせないようカーテンがずっと閉めっぱなし(笑)。
藤山:逆に、「いやな感じ」を演出してしまった。
鈴木:あるいは、親世帯と子世帯の間に共有スペースを設けて、家族間の交流を促すような間取り。実際には、どちらかの世帯がほぼ占拠して交流の機能を果たしていない。もしくは、両世帯とも気を使って誰もそこを使わない。
藤山:いかにも、建築家の提案っぽいです。
鈴木:要するに、人間関係の観察が楽観的なの。超性善説を前提に設計するから、そういうことになる。どこかのCMに出てくるようなウソくさい家族観をベースに設計しちゃうわけだね。
藤山:「仲良く暮らす」の定義がズレている。
鈴木:そう。たとえば、おじいさんとお父さんの趣味が同じで、休日にはクルマを一緒にいじっている。おばあさんも、奥様も、いい意味で他人に干渉しないで、自分が好きなように暮らしている。家族全員がそういう性格の人たちだとしても、私だったらやはり完全分離型をおすすめする。完全分離にしているからこそ、まだオモテに出ていない火種をずっと眠らせたまま仲良く暮らしていけるのだからね。 関係崩壊のきっかけは、できるだけつくらないに越したことはない。悲しいけれど。
(つづく)
会員登録 が必要です