ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第45回】ソファは座るためだけの家具ではない(1)

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インテリア悩みリフォームレビュー

藤山:新しく家を建てた人が、前の家から持ち込んで使う家具があると思うのですが、鈴木さんのお客さんでは何が多いですか?

鈴木:多いのは食器棚かな。おそらくどの家でもいちばん高価な家具が食器棚で、捨てるには忍びないものだからね。逆に、いちばん持ち込まれない家具はテレビ台。「うちは昔からずっとこのテレビ台です」という人は、たいてい黒い合成樹脂のシートが貼られた廉価品で、手前にガラスの扉が付いていて……。

藤山:あっ、まさにわが家がそれです。20年前にヨドバシカメラで買ったやつ。

鈴木:そういうものは、IKEAでも無印でもいいけど、テレビ台だけは新築を機に買い換えたほうがインテリアの雰囲気が良くなりますよとアドバイスしている。

藤山:もちろん、新築やリフォームのタイミングで家具を揃えられればよいのでしょうが、昔から使われていた家具が新居に持ち込まれる場合、せっかくの真新しいインテリアが古い家具とマッチしないという問題が生じませんか?

鈴木:それ以前の問題として、新居に既存の家具を持ち込まれる人は、家具が1つだけではない。すでにたくさんの家具をお持ちなわけ。だけど、各々のテイストがだいたいバラバラなんだね。ダイニングはカントリー調、リビングは北欧風、寝室はシンプルモダン……といった具合に、既存のインテリア自体に統一感がないから、新居のインテリアの方向性を見出すのすら難しい。だけど、それは無理もないよ。長い間、少しずつ買い揃えられた家具というのは、そのときどきの流行や自分自身の嗜好の変化がダイレクトに反映されたものだからね。

藤山:たしかに、人の好みって10年単位くらいで微妙に変わりますよね。先日、20年ほど前に買ったCDの山を整理していたのですが、当時聴いて「失敗した」と思っていたCDが、いま聴くと「なにこれ!全然いいじゃん」って……。音楽もインテリアも「趣味もの」という意味では、長年同じスタイルで統一されているほうが、むしろ珍しいことなのかもしれません。

鈴木:そのとおり。

藤山:だとすると、住宅の設計者としては、顧客の趣味嗜好が変化してもインテリアがチグハグにならないよう、シンプルなフレームだけの建築をつくってあげたほうが無難という考え方もありますか?

鈴木:それも一理ある。おもしろくもおかしくもないけれど、白い壁だけの素っ気ない空間にしておけば、どのような家具が置かれても「大外し」することはない。だけど、そうすると今度は床の色をどうするかでちょっと悩む。

藤山:床の色?

鈴木:たとえば、床の色を明るくすると、濃い色の家具が置かれたとき、床と家具のバランスが悪くなる。かといって、あらかじめ濃い色の床にしてしまうと、今度は落ち着きすぎで、地味な、暗い印象を与える部屋になってしまう。どちらかといえば、ちょっと濃いめの床にしておくほうが無難だけど、濃い色のフローリングってたいてい高価なんだよね~(笑)。

藤山:コストが……。

鈴木:だから、やっぱり明るめの床もありかなぁ……でもなぁ……って、床の色だけで無限ループにはまっていく(笑)。「何にでも合わせられる」って、実はけっこう難しいんだよ。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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