ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第46回】ソファは座るためだけの家具ではない(2)

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鈴木:最近、「持たない暮らし」というのが注目されているじゃない?

藤山:ああ、必要最低限のモノだけで暮らす人たち。ミニマリスト。

鈴木:そこまで徹底していなくても、いまどきの若い世代は総じて持ち物が少ないといわれている。私たちの若いときみたいに、大きなステレオセットが置いてある家はほとんどないし、ウォークマンはスマートフォンの中に吸収されてしまった。音楽はダウンロードして聴くようになったし、マンガは電子書籍で読んでいる。

藤山:人にもよるでしょうが、全体の傾向としてモノのサイズが小さくなったり、形態が変わったりしているのは事実ですね。

鈴木:だから、若い世代の家は、さぞやすっきりしているに違いないと思うじゃない?

藤山:ええ、まあ。

鈴木:でも、案外そうでもないんだよ。新築の打ち合わせで30代前半の夫婦のマンションにおじゃますると、まず驚かされるのがベッドのサイズが異常にデカイということ。

藤山:どの家もですか?

鈴木:そう。ダブルベッドを2つか、大きめのセミダブルを2つ並べている家がほとんどで、寝室の圧迫感がハンパない(笑)。ちっともすっきりしていないわけ。

藤山:それって全国的な傾向でしょうか?それとも、鈴木さんのお客さんだけ?

鈴木:さあ、どうだろう。狭いマンション暮らしだけど、せめてベッドくらいは……って、大きなベッドに安らぎを求めているのかな、と勝手に想像しているわけだけど。

藤山:もしかして、こうじゃないですか。「室内に置かれるモノの表面積は、時代が変わっても常に一定に保たれる」説。何かが小さくなれば、何かが大きくなる。ステレオセットがなくなれば、ベッドが大きくなる。テレビが薄くなれば、PC的な機器が増える。結局、住まいの余白は一定に保たれる運命なんですよ。

鈴木:なるほどね。でも、どうしてベッドが大きくなるのだろうか……。

 

藤山:で、その大きなベッドが、新しく建てた家にそのままやって 来るわけですか?

鈴木:そう、それがまた問題なの。最低限寝られればいいという病院のベッドみたいなものは一つもないから、設計する側は頭が痛い。ベッドがとにかく場所をとるもので……。

藤山:やたらと場所をとる家具といえば、ソファもそうでしょう?

鈴木:ああ、ソファね。場所をとるわりに、意外と有効に使われない家具の代表選手。

藤山:鈴木さんが書かれた本(「片づけの解剖図鑑」エクスナレッジ刊)にも出てきますが、ソファという家具は、有効利用される期間が思いのほか短いんですよね。子供が小さい頃は親子で仲良く座っているけれど、大きくなれば3人掛けのソファでも座っているのは誰か一人だけ。いっそ1人用のソファを2つ置いたほうが、スペースも節約されて実用的ではないかという提案でした。

鈴木:人間が座っていればまだいいほうで、ヘタすると取り込んだばかりの洗濯物置き場になっていたり、犬の寝床になっていたりする(笑)。

藤山:先日、知り合いの女性が、「あまり使っていないリビングのソファ、思い切って処分したら、うちのリビングってこんなに広かったの!? ってビックリした」と笑っていました。その感覚よく分かります。ソファはとにかく場所をとりますから。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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