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【第48回】ソファは座るためだけの家具ではない(4)

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鈴木:間取りを考えるとき、磯野家タイプは十分検討に値する間取り。ただ、座れる場所がダイニングチェアしかないと不便だから、ところどころに1人用のソファや椅子を設けられればベター。

藤山:少なくとも、大きなソファはいらない、と。

鈴木:だけど、ソファという家具は座る・座らないだけでは語れない、もう一つ重要な側面も持っているんだな。

藤山:どういうことですか?

鈴木:普段、お客さんと話していて感じるんだけど、ソファというのは住まいにおける「憧れの象徴」でもあるんだ。家具のなかでも特別扱いされていて、「新築=ソファを買う」といってもいいくらいの存在。

藤山:ああ、なんとなく分かります。

鈴木:費用耐効果でいえば特になくても構わないのだけど、それとは別の文脈で、長い人生、一度は気合いを入れてソファを買わなければならないときというのが誰しもあるわけ。そこをおろそかにしていると、死ぬ間際になって、「そういえばオレ、ちゃんとしたソファを一度も買わなかったな」って後悔するんだから。

藤山:さすがにそれはウソでしょ(笑)。

鈴木:いやいやホントだって。

藤山:実際、鈴木さんのお客さんはどうですか。新築のタイミングでソファを買われる人は多いですか?

鈴木:それは、はっきり2パターンに分かれる。なぜかというと、間取りの打ち合わせって、A案、B案、C案の3つくらいを提案して進めていくのが一般的じゃない?A案は、オーソドックスにLDKを配置したノーマルな間取り。そこから、玄関をもっと広くしたい、ウォークインクロゼットがほしい、洗面室を広めの家事室に変更したい、と要望が次々に出され、それに対応してつくられるのがB案やC案。そのとき削られる部屋が、たいていリビングなわけで……。

藤山:リビングが削られればソファを置く余地もなくなるから、B案やC案を選んだ人は当然ソファを買わない、と。

鈴木:そういうこと。さっき言った、「ダイニングがリビングを兼用する」間取りだね。あるいは、ダイニングの近くに階段を設けて、階段の一部をベンチのように座れる場所としてしつらえるという方法も一案としてある。逆に、いったんB案やC案に傾いたものの、やはりリビングの広いA案を捨てきれずに戻ってくる人もいて、そういう人は当然、「ソファを買う派」になる。

藤山:実際、「ソファを買う派」の人は、新居でイメージどおりの生活を楽しまれていますか?

鈴木:だといいのだけど、現実には半分くらいの家がソファを買ってすらいない。

藤山:はっ? 買ってない?せっかくリビングの広い間取りを選んだのに、ソファを置かないんですか?

鈴木:そう。買わないんだな、これが(笑)。冗談のような話だけど。

藤山:建物の工事にお金を使いすぎて買えなくなった、とか?

鈴木:いやいや、いちばん多い理由は、「新居でちょっと生活してみて、じっくり考えてから買います」かな。新築後3年くらい経って、「ようやく買いました」という連絡がくる家はけっこうあるよ。そうかと思えば、「やっぱり必要なさそうだから買うのをやめました」という家も少なくない。

藤山:それは意外。ただ、買うのをやめた人って、死ぬ間際に後悔しないか心配です(笑)。

(おわり)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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