ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第44回】音のデザインが悪いと夫婦の仲も悪くなる(4)

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藤山:先ほども話に出ましたが、近頃の住宅の内装材は音が反響しやすい硬い材料ばかりじゃないですか。ということは、ほとんどの人が音の環境が悪い家で生活していることになりますよね。

鈴木:そうなるね。

藤山:それが身体的に、あるいは精神的に何か悪い影響を及ぼすなんてことはないのでしょうか。

鈴木:うーん。それはなんともいえないなぁ。いっそ、「知らぬが仏」で無視していたほうがよかったりして。

藤山:これは私が昔から唱えている説で、いつかきちんと調べて本にでも書きたいと温めている企画なのですが、「長く愛される飲み屋さんは音がいい」って思いません?

鈴木:ほう。音の環境がいい飲み屋は長続きするってこと?それはおもしろいかも。長く愛されるというのがポイントだね。

藤山:逆の例だと、ビルの地下に店を構えているコンクリート打放しのイタリアンとか。いかにも「こじゃれてます」って雰囲気のお店があると思いますが、そういうお店は中に入ると音がワンワン反響してとても落ち着いて話しができないでしょ?それが原因で、何を食べたか、どんな味がしたかも覚えていない。そこから、音の悪いお店は長続きせずに潰れていくのではないかという仮説です。私の近所のごく限られた範囲での調査ですが、その手のお店はオープン後5年以内には店を畳んでいるような気がしています。

鈴木:うん。一理あるかも。

藤山:その逆で、お酒も普通、肴も普通、サービスも普通。要するに、太田和彦言うところの「いい酒、いい人、いい肴」の真逆をいくような居酒屋があって、それなのになんとなく繁盛しているお店が一方にあるんです。実際、私がよく行く居酒屋も、特に売りはないのですが落ち着くという意味ではとにかく落ち着く。なにしろ、床は全部畳敷きですから。地元で何十年も続いています。

鈴木:一般の人は、「この店は音がひどいな」と意識することはあまりないだろうけど、なんとなく無意識に音の悪い店から足が遠のいてしまうというケースはあるかもしれない。

藤山:私は初めてのお店に行くと、まず音のチェックから入ります。内装材を細かく見ていく。あと、天井のかたちとか。「食べログ」の評価には絶対入っていない項目。

鈴木:味とは別の問題だ。

藤山:では、音の良いお店とはどんなお店かと問われれば、それは一も二もなく「昭和の時代からやっているスナック」と答えます。

鈴木:なるほど。床がカーペット敷きで、カウンターまで紫色のベルベットで覆われているような……布だらけの。

藤山:そうです。見るからに、「音、吸いとるぞー」ってやる気がみなぎっている(笑)。何年か前にふらっと入った、西新宿の地下にある喫茶店がまさにそのタイプでした。夜はスナックだけど、昼は喫茶店もやってますみたいなお店で、別珍のカバーがかかった丸椅子は、半分破れて中から綿がはみ出しているんだけど、それがまた輪をかけて音を吸いとっている。お店の周りはけっこううるさいのに、入った瞬間、空間がしっとりしているんです。コーヒーはうまくもまずくもありませんでしたが、また来たいなとすぐに思いましたね。

鈴木:ある意味、抜群の音響ができている。

藤山:まぐれですけど(笑)。だから、もし近々自分の店を開きたいという人がいたら、まずこの話をお伝えしておきたいです。「お店を長続きさせたかったら、音を良くしましょうね」って。

鈴木:少なくとも、コンクリート打放しの内装はやめたほうがいいよ。

(おわり)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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