

鈴木:いまのは極端な例だったけど、一般的に音に関してよくあるクレームは、「テレビの音が聴こえにくい」かな。お父さんと子供がリビングでテレビを見ていると、お母さんがキッチンで洗い物をしている音がうるさくて、テレビの音が聴こえにくいというケース。なかには、「テレビを見ているときに洗い物はするな!」ってお父さんがキレて、夫婦喧嘩になる家もあるらしい。
藤山:意外と深刻。
鈴木:これも、元はといえば音の反射が原因だね。音の設計がきちんとできていれば、キッチンの音がリビングまでダダ漏れすることはない。もちろん間取りの問題もあるけど、たとえばキッチンの天井に音を吸収してくれる「吸音板」を張っておくだけでも、反響は相当減る。
藤山:吸音板って、昔の家にはたいてい張ってありましたね。うちの実家にもありました。ボツボツとヘンな穴のあいた天井板。あれ、何なのだろうと思っていましたけど……。最近はあまり見ませんね。
鈴木:お金がかかるから。計画当初は予定していても、最終的なコスト調整で削られることが少なくない。あと、私の記憶では1980年代のバブルの頃から、「天井に吸音板を張るのはダサい」という風潮が設計者の間で広まって、それも吸音板が減った理由のような気がする。
藤山:見た目が悪いから?
鈴木:あまり格好いいものじゃないよね。最近も必要があっていろいろ調べてみたのだけれど、やはりデザインのよい吸音板は流通していないというのが正直なところ。逆にいえば、メーカー側で設計者が思わず使いたくなるような吸音板をつくってくれれば、みんなすぐに飛びつくと思うのだけど。
藤山:ちょっとくらい格好悪くてもいいじゃないですか。天井をまじまじ見る人なんていないのだし。