ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第43回】音のデザインが悪いと夫婦の仲も悪くなる(3)

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鈴木:いまのは極端な例だったけど、一般的に音に関してよくあるクレームは、「テレビの音が聴こえにくい」かな。お父さんと子供がリビングでテレビを見ていると、お母さんがキッチンで洗い物をしている音がうるさくて、テレビの音が聴こえにくいというケース。なかには、「テレビを見ているときに洗い物はするな!」ってお父さんがキレて、夫婦喧嘩になる家もあるらしい。

藤山:意外と深刻。

鈴木:これも、元はといえば音の反射が原因だね。音の設計がきちんとできていれば、キッチンの音がリビングまでダダ漏れすることはない。もちろん間取りの問題もあるけど、たとえばキッチンの天井に音を吸収してくれる「吸音板」を張っておくだけでも、反響は相当減る。

藤山:吸音板って、昔の家にはたいてい張ってありましたね。うちの実家にもありました。ボツボツとヘンな穴のあいた天井板。あれ、何なのだろうと思っていましたけど……。最近はあまり見ませんね。

鈴木:お金がかかるから。計画当初は予定していても、最終的なコスト調整で削られることが少なくない。あと、私の記憶では1980年代のバブルの頃から、「天井に吸音板を張るのはダサい」という風潮が設計者の間で広まって、それも吸音板が減った理由のような気がする。

藤山:見た目が悪いから?

鈴木:あまり格好いいものじゃないよね。最近も必要があっていろいろ調べてみたのだけれど、やはりデザインのよい吸音板は流通していないというのが正直なところ。逆にいえば、メーカー側で設計者が思わず使いたくなるような吸音板をつくってくれれば、みんなすぐに飛びつくと思うのだけど。

藤山:ちょっとくらい格好悪くてもいいじゃないですか。天井をまじまじ見る人なんていないのだし。

鈴木:でも、写真には写るじゃない(笑)。ビジュアルに残ることを考えると、設計者としては二の足を踏んでしまう。「あっ、この人、ヘンなデザインの吸音板張っちゃってる」って思われたくない。

藤山:その価値観、よく分からないなぁ。

鈴木:いわゆる、“建築界のゆがんだ価値観”ってやつ。

藤山:ところで、鈴木さんは建築界でも有数のギターコレクターとして有名ですが、家でもギターは弾かれるんですか?

鈴木:家でも弾きます。

藤山:ご近所迷惑になっていません?

鈴木:鉄筋コンクリートのマンションだから、大丈夫じゃないかなぁ。もしかしたら、多少音が漏れているのかもしれないけど(笑)。

藤山:防音の工夫は、何かされているのでしょうか?

鈴木:してます。まず、壁面に鉛のシートを張って、その上に吸音材を入れる。さらにその上にゴム製の吸音シートを張って、最終的に有孔ベニヤで仕上げるという仕様。

藤山:かなり本格的。自作ですか?

鈴木:自作。その部屋ではパンッと手を叩いてもまったく反響しません。

藤山:その手の防音室って、私が住んでいるような木造のアパートでも製作可能ですか?

鈴木:できるんじゃない?あ、でも、もし自分でやるなら、卵のパックがあるじゃない?あれにグラスウールをつめて天井に張り巡らせれば、超強力な吸音材になるよ。

藤山:それ、「オーディオマニアのお宅拝見」みたいな記事で見たことがあります。卵パックが天井に張り付いている部屋。ちょっと異様な雰囲気でしたが……。

鈴木:でも、あれは本当に効く。吸音の仕組みとしては無響音室とまったく同じだから。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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