ひとの家見て、わが家を直せ。

会員限定

【第42回】音のデザインが悪いと夫婦の仲も悪くなる(2)

空間
その他
関心
インテリア悩みリフォームレビュー

鈴木:これも実際に設計した家だけど、壁と天井に真っ白い漆喰を塗って、床は深みのあるチークのフローリング張り、そこに間接照明でボワッと明かりを灯す。見た目にはしっとりと落ち着いた、大人の空間って感じがするじゃない?でも、いざその部屋に入ると音の反響で、ガチャガチャと小うるさい空間だとすぐに分かった。じつを言うと、この手の失敗は私も何度か経験している。空間のビジュアルに凝り始めると、そっちにばかり気をとられて、つい音のことがスコーンと抜けてしまうの。たいてい、完成してからハッとするわけ。「あっ、音のこと忘れてた」って。

藤山:そういうとき、鈴木さんは素直に「白状」するわけですか?

鈴木:白状しません(笑)。というのも、音についてお客さんからクレームを寄せられることはまずないから。プロの耳で聞いて、「ちょっと反響しているかな」と勝手に気がついているだけで……。

藤山:お客さんはその家の音しか知らないのだから、比較のしようもありませんしね。

鈴木:ただし、反響がちょっと気になる家は、音を吸収してくれる布製品――さっき話に出たラグやカーテンを意識的に持ち込んで、少しでも反響を抑えてもらうようにアドバイスはしておきます。

藤山:前回のテーマだった「光と風」もそうですが、音も目に見えない世界だけに、プロの知識と技術で万全を期してあげないといけませんね。

鈴木:そういえば、コンクリート打放しの話で思い出したんだけど。

藤山:ええ。

鈴木:その昔、途中から仕上げの工事が一切できなくなった鉄筋コンクリート造3階建ての家があったの。

藤山:工事ができなくなった?

鈴木:予定していた建築費をご主人がギャンブルと酒に使い込んで、スッカラカンになってしまって。

藤山:それだけで1話分仕上がりそうなネタです(笑)。

鈴木:相続で突然転がり込んできたお金だったのがいけなかったみたい。ともかく、コンクリートを打ち終わったところで工事がストップしてしまったから、文字どおり打放しになってしまった。床も壁も天井もコンクリートが剥き出しのまま。そこに最低限必要な窓などを付けて、一応完成はさせた。で、よせばいいのに、 その家に家族5人で引っ越してきたわけ。そうしたら、予想どおり家中がビンビンのワンワンで、音が響いてうるさいなんてものじゃなかったね。

藤山:トンネルの中で生活しているみたいな。

鈴木:そうそう。まさにトンネルの中。これは相当やばいと思った。もちろん、クライアントだってそれを分かっているわけだけど、お金がないのだからどうしようもない。奥さんは、「早く断熱材を入れて、壁も仕上げて……」って。

藤山:えっ? 断熱材もなかったんですか?

鈴木:そう。

藤山:本当にコンクリートを打っただけ?

鈴木:でも、その状態で1年間過ごしたんだよ。当初は、地上2階・地下1階の3層を薪ストーブの熱で暖めようという計画だったのだけど……、断熱材も含めて全部なくなっちゃったんだから、そりゃもう地獄よ。

藤山:地獄だ、地獄。

鈴木:初めて迎えた冬は、あまりに寒くて死ぬかと思ったって(笑)。

藤山:分かるなぁ。私も経験がありますが、断熱材のないコンクリート打放しの建物って、冬は冷凍庫の中にいるみたいですよね。1時間もいたら具合が悪くなる。でも、そこまで極限状態に追い込まれたら、もはや音の反響なんてどうでもいいんじゃないですか。

鈴木:まったく、どうでもいい(笑)。その前に寒すぎて死にそうなんだから。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)