鈴木:そういえば、コンクリート打放しの話で思い出したんだけど。
藤山:ええ。
鈴木:その昔、途中から仕上げの工事が一切できなくなった鉄筋コンクリート造3階建ての家があったの。
藤山:工事ができなくなった?
鈴木:予定していた建築費をご主人がギャンブルと酒に使い込んで、スッカラカンになってしまって。
藤山:それだけで1話分仕上がりそうなネタです(笑)。
鈴木:相続で突然転がり込んできたお金だったのがいけなかったみたい。ともかく、コンクリートを打ち終わったところで工事がストップしてしまったから、文字どおり打放しになってしまった。床も壁も天井もコンクリートが剥き出しのまま。そこに最低限必要な窓などを付けて、一応完成はさせた。で、よせばいいのに、 その家に家族5人で引っ越してきたわけ。そうしたら、予想どおり家中がビンビンのワンワンで、音が響いてうるさいなんてものじゃなかったね。
藤山:トンネルの中で生活しているみたいな。
鈴木:そうそう。まさにトンネルの中。これは相当やばいと思った。もちろん、クライアントだってそれを分かっているわけだけど、お金がないのだからどうしようもない。奥さんは、「早く断熱材を入れて、壁も仕上げて……」って。
藤山:えっ? 断熱材もなかったんですか?
鈴木:そう。
藤山:本当にコンクリートを打っただけ?
鈴木:でも、その状態で1年間過ごしたんだよ。当初は、地上2階・地下1階の3層を薪ストーブの熱で暖めようという計画だったのだけど……、断熱材も含めて全部なくなっちゃったんだから、そりゃもう地獄よ。
藤山:地獄だ、地獄。
鈴木:初めて迎えた冬は、あまりに寒くて死ぬかと思ったって(笑)。
藤山:分かるなぁ。私も経験がありますが、断熱材のないコンクリート打放しの建物って、冬は冷凍庫の中にいるみたいですよね。1時間もいたら具合が悪くなる。でも、そこまで極限状態に追い込まれたら、もはや音の反響なんてどうでもいいんじゃないですか。
鈴木:まったく、どうでもいい(笑)。その前に寒すぎて死にそうなんだから。
(つづく)
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