ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第41回】音のデザインが悪いと夫婦の仲も悪くなる(1)

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藤山:昔、鈴木さんにうかがったお話で、どこで話してもウケる話があるんです。

鈴木:何の話?

藤山:鉄筋コンクリート打放しの家を新築されたご夫婦の話です。その家の中で話しをしていると、自分たちの声がコンクリートに反響してイライラする。最初のうちは我慢していたけれど、そのうちだんだん嫌気が差して、しまいには家の中で話すのをやめてしまったという哀しい話。

鈴木:あった、あった。夫婦の会話がなくなった家。コンクリート打放しの家は、ホント、音がうるさいんだよ。

藤山:というわけで、きょうは音の話です。ご存じない読者もいらっしゃると思いますので、まずは音の基本的な性質について、簡単にレクチャーをお願いできますか。

鈴木:ものすごく簡単に言えば、音というのは硬いものにぶつかると強く反射して、柔らかいものにぶつかると弱く反射する、あるいはそのまま吸収される。ちょうどビリヤードの球と同じで、音という「球」が硬いものにぶつかれば、そのエネルギーが消えるまで、音はいつまでも跳ね返り続ける。

藤山:たとえば、コンクリートは非常に硬い物質ですから、そこに音がぶつかると跳ね返りも当然大きくなるわけですね。

鈴木:あっちの壁で跳ね返った音が、こっちの壁で跳ね返って、またこっちの壁でも……というように続いていき、それが人間の耳にうるさいと感じられる。

藤山:で、反響が常態化すると、話しをするのさえ嫌になってくる、という理屈ですね。マンションの地下駐車場などはその典型ではないですか。コンクリートで囲まれた駐車場に入った瞬間、音がワンワン反響しているのがよく分かります。

鈴木:いまどきの家は、壁にしろ天井にしろ、石膏ボードの上にビニルクロスを張って仕上げることが多いじゃない?石膏ボードも硬い材料だから、コンクリートほどではないにしろ、音が反響してキンキンする。逆に、昔の日本家屋は音の反響なんて全然問題にならなかった。床は畳、壁は障子やふすまといった紙、天井は木の板だから、音はほとんど反射しない。

藤山:全部、柔らかい材料ですね。同じ木材でも、チークのような広葉樹とスギのような針葉樹では、音の反射は異なりますか?

鈴木:広葉樹と針葉樹だったら、やはり柔らかい針葉樹のほうが音の反響は少ない。以前、スギのフローリングを張って、なおかつ部屋の形状がちょっと凸凹した複雑なかたちをした家を設計したことがあったのだけど、その家は音がいろいろな方向に反射する効果もあって、反響はほとんど気にならなかった。

藤山:部屋が複雑な形状をしていることもそうですが、あとは床にラグを敷いたり、ソファを置いたり、窓にカーテンをかけたりすると、そこでも音が吸収されて、一層落ち着いた部屋になりますね。

鈴木:そのとおり。一度、自分の部屋で試してみるといいよ。パンッと手を叩いてビ~ンとなったら、それは「フラッターエコー」が発生している証拠。音の設計としてはアウトだ。

藤山:手を叩いただけで分かります?

鈴木:分かります。パンッとやれば。

藤山:最近は自然素材を使った内装が人気ですが、漆喰を塗った部屋の反響はどうですか?

鈴木:漆喰は塗る前は液体だけど、乾いたらカチカチに硬化するから、やっぱり音はビンビン反響します。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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