ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第28回】天井は高いほうがいいか、低いほうがいいか (4)

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悩みリフォームレビュー

藤山:鈴木さんのお客さんは、階段をリビング内に設置したいという方が多いですか?

鈴木:特に多いというわけではないけど、よくあるリクエストの一つではある。

藤山:子供がリビングを通過して2階の子供部屋に行くようにしたいという理由で?

鈴木:たいていそうだね。玄関から子供部屋に直接上がるのを嫌がる親御さんは多い。男のお子さんがいらっしゃる家庭は、わりとそうしたがる傾向にあるかもしれない。

藤山:男女で違いがあるんですか?

鈴木:何年か前に設計したお宅は、女の子2人、男の子1人の5人家族だったけど、お母さんのほうから、「息子の部屋はキッチンの隣にしてほしい」と要望された。2階の奥のほうに部屋をつくると何をしているか分からないから、息子は常に目の届く範囲に置いておきたいって。

藤山:へえー。私がそこの息子なら、すぐに家を出ますね。

鈴木:(笑)。もしかしたら、それがねらいだったのかも。子供をパラサイト化させないための間取り。

藤山:以前、設計者の人たちと議論していて、「子供にとって本当にいい家は、ある程度居心地の悪い家だ」という話になったことがあるんです。居心地が悪いから早く家を出ようとして独立心が芽生える、いうのがその根拠でした。鈴木さんは、ニートとか引きこもりの人がいる家を新築したことってあります?

鈴木:ありますよ。

藤山:そういうときって、何か策を練るものですか?この子の部屋をこのあたりにつくったら、ますます家から出て行かなくなるんじゃないかとか、働かなくなるんじゃないかとか。

鈴木:あのね。それはね、非常に微妙な問題なの。まず親がね、彼のことをニートと呼ばない。

藤山:そりゃそうでしょう。「ご紹介します、うちのニートです」とは言わない(笑)。

鈴木:会話の流れで、「お子さんは何をされているんですか」ってなんとなく聞くと、「就職活動中」って。それで、ははーんと(笑)。ただ、ニートとか引きこもりとかが分かっても、こちらができることはほとんどない。子供部屋の要望って、たいていお母さんが決めてしまうから。お母さん自身が、自分の近くに置くか、どこか別の安全な場所に置くかを決めてしまう。

藤山:近くに置くってどういうことですか?

鈴木:さっきの、キッチンの横に子供部屋をつくるなんていうのがまさにそう。「自分の目が届く範囲に」という意図もあるけど、言い換えれば「自分がかくまっている」とも言える。

藤山:おぉ、社会学っぽい話。

鈴木:でもそれって、親にも子にも双方にメリットがあったりするわけ。子供はお腹がすいたら冷蔵庫をあさってパッと自分の部屋に戻って来られる。お母さんはご飯ができたらすぐ隣の子供部屋に持って行ける。

藤山:そういうのも、「家事ラク動線」って言うんですかね。

鈴木:普通だったらさ、「飯のときくらい部屋から出て来い!」って怒鳴りたくもなるじゃない。でも違うんだ、そういう子をもつ親心というのは。

藤山:だとしたら、さっきの説はあっさり崩れるなぁ。親に干渉されるのが嫌で独立心が芽生えるというのはウソかもしれない。

鈴木:お母さんは、「がんばろうね」って言うだけだから。「納得する仕事が見つかるまでいつまでもいていいからね」って。「お母さんがんばるから」って。

藤山:そう言われると、いつまでも家にいていいような気がする。

鈴木:なんでこういう話になったのか分からないけど(笑)、子供がきちんと独立できる家というのは、今後家づくりの大きなテーマの一つになるかもしれない。

藤山:なかなか興味深いので、次回は引き続き、子供部屋の話をうかがいましょう。

 

(おわり)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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