ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第27回】天井は高いほうがいいか、低いほうがいいか(3)

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藤山:ふかわりょうっているじゃないですか、芸人の。

鈴木:ああ、いますね。

藤山:彼がまだデビューしたての頃の一言ネタで、「お前ん家、天井低くない?」というのがあったんです。

鈴木:(笑)

藤山:友達にちょっとしたダメージを与える一言なんですけど、そのネタを聞いて分かったのは、「天井が低いというのは、一般の人にとっては恥ずべき状況なんだな」ってことでした。

鈴木:たしかにそうかもね。天井の低い家って貧乏長屋のイメージがある。狭い部屋は天井も低いし、広い家は天井も高い、みたいな。

藤山:おそらく天井の高さについては、建築関係者と一般の人の間で最も見解の相違が激しい部分ではないかと思います。建築的な良し悪しという評価軸以外に、金持ちっぽいか貧乏くさいかという別の評価軸もあるんです。一般の人はもちろん後者の評価軸しか知らない。だから、建築のプロとアマで価値観が大きくずれてしまう。

鈴木:ああ、それはあるかも。一般の人のなかにあるお金持ちの家のイメージって、昔の洋館あたりがベースになっているのかもね。どの部屋も天井が高くて、玄関に入るとすぐに吹抜けがあって、階段がぐるっと回っていて、シャンデリアがどーんとあって、みたいな。

藤山:小学校の社会科見学って、なぜかそういう洋館に行きませんか?それでもう、お金持ちの家=天井が高いが刷り込まれてしまうのかもしれない。

鈴木:でも面白いのは、人は高さ方向の感覚には滅法弱いってこと。さっきの話じゃないけど、天井高は2,400㎜以上じゃないと嫌ですという人を2,300㎜の部屋に入れるとするじゃない?天井の高さは何㎜ですかって聞いてもまず答えられないよ。広さの感覚はなんとなく分かる。ここは6畳だとか4畳半だとか。でも、一般の人がいう高さの寸法はほぼ間違っている。

藤山:だとするなら、数字にこだわって天井は何㎜以上と指定するのはナンセンスですね。

鈴木:そういうこと。それだけに、設計する側に「高さのセンス」がないと、プロポーションのおかしな家が出来てしまう。

藤山:それこそ、セカンドオピニオンを求めたくなるような家になります。

鈴木:そもそも、寝るとき以外、人は上のほうを見ないからね。新築の打ち合わせのときは、クロスを張るより羽目板を張ったほうが格好いいかもみたいな話が出るけど、いざ住み始めてみると誰も仕上げのことなんて気にしていない。

藤山:その程度の興味しかないのかもしれません、天井って。

鈴木:そういえばさ、この前、韓国のドラマを見ていて思ったんだけど……。

藤山:いきなり韓流の話ですか。

鈴木:いや、洋館の階段の話をしていて思い出したんだけど、テレビドラマのセットって必ず階段がリビングの中にあるよね。いわゆる「リビング階段」ってやつ。家族がリビングでくつろいでいるところに問題を抱えた息子が帰ってくるとか、娘が泣きながら階段を駆け下りてくるとか。日本のドラマもアメリカのドラマもみんなそう。

藤山:それはやっぱり演出上の都合なんじゃないですか。廊下に階段がある間取りにしたら、カット割りとか面倒くさいし……。というか、なんでその話なんです?

鈴木:前々からそれを指摘しておきたかったの(笑)。実際にはリビングより廊下に階段があるほうが圧倒的に多いですよって言いたかっただけ。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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