ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第26回】天井は高いほうがいいか、低いほうがいいか(2)

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藤山:お客さんのほうから、「吹抜けのある家にしてください」とリクエストされることはありますか?

鈴木:それはあまりないけど、天井を高くしてほしいという人はけっこういらっしゃる。最低でも2,400㎜以上にしたいとか、具体的な数字を言われたりして。

藤山:そういう要望を出されるのは、どういう方ですか?

鈴木:もともと天井の高い家に住んでいたという人が多いかな。海外の生活が長くて、日本の家の天井高がどうにも気に入らないという人。あとは、天井の高い家に対して憧れがある人。

藤山:天井が高いというのは憧れの対象ですか。

鈴木:私たちの親世代にそういう人が多いよ。グレース・ケリーみたいな女優が、大きな回り階段を優雅に降りてくるシーンに憧れを抱いた世代。いまの若い人には分からないかもしれないけど、ある世代にとっては高い天井というのは、いまだにセレブ感の象徴として存在している。

藤山:天井高のリクエストって常にあるものですか?

鈴木:いや。よく言われたのは、住宅の設計を始めてすぐの頃だから、いまから20年くらい前かな。自分としては特に低い天井にした覚えはないんだけど、図面を見せると間髪入れずに「天井は何㎜ですか?」ってよく聞かれた。たとえば「2,200㎜です」と答えると、「えぇー、2,200ぅ!?最低でも2,400㎜はないと困るなぁ」って(笑)。でも、ここ10年くらいは言われなくなったかな。

藤山:やはり、CMの影響でしょうか。

鈴木:ん?そういうCMがあったっけ?

藤山:ご存じないですか、ミサワホームのCM。たしか、「大物は天井の高い家で育つ」みたいなコピーのCMをやっていましたよ。皆さんそれを見て真に受けちゃったんじゃないかと思いますけど。

鈴木:あぁ、そういうことなの。

藤山:だって、当時そのCMを見た私も「へぇーそうなんだ」と真に受けましたもん(笑)。で、わが家の天井を見上げて、「あ、オレは小物にしかならないな」と了解しましたから。

鈴木:だけど不思議なもので、住宅の設計が得意な建築家に限って、みんな天井の低い家が好きじゃない?かのフランク・ロイド・ライトだって、背の高い米国人の別荘だというのに窓際の天井なんて2mしかないんだよ。それはもう低く低く抑え込んでいる。で、またそれがすこぶる格好いいんだ。

藤山:天井は低いほうがいいというのはよく聞く話ですね。

鈴木:けれど、その感覚って一般の人にはまず理解されない。もう10年くらい前にリフォームしたお宅だけど、そこは偶然にもライトの信奉者が設計した家だったの。そういう家を自分らみたいな建築屋が見ると、「さすが、ライトの意図をくんでいるだけあって素敵な家だなぁ」って至る所に感動する。でも、実際住んでいる人に言わせると、われわれが手放しで感動した部分がことごとく気に食わないというわけ(笑)。

藤山:天井の低さとか?

鈴木:  そう。たしかに、窓際や廊下の天井は2mくらいに抑えられていた。だけど、そこからリビングに入るとパーッと天井が高くなったように見えて非常に気持ちがいい。それをわれわれは素敵だなと思うわけ。でもそこの奥さんは、「うちはね! なんでか知らないけどね!低いのよ! 天井が!」って本当に力を込めて嫌そうに言うの(笑)。そこまで言われると、「素敵ですね」なんてとても言えない。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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