ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第25回】天井は高いほうがいいか、低いほうがいいか(1)

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悩みリフォームレビュー

鈴木:この前、昔のお客さんから、「何年か前に建売住宅を買った友人が困っているから助けてほしい」と言われて、さっそくその家に行ってみたの。

藤山:ほう。どんな家なんですか?

鈴木:南側のリビングの上が2層分丸々吹抜けになっている家。一番上に天窓がポツンと付いている。思わず、「すごいですねぇ」って叫んじゃったんだけど、住んでいる当人にとってはちっともすごくないわけ。なにしろ、その大きな吹抜けから冬は冷気がびゅわーっと降りてくる。夏は天窓からの日差しがギンギンに降りそそぐ。「ひとつもいいことないじゃないですか」って言ったら、おっしゃるとおりだ、と。

藤山:そりゃ大変だ。

鈴木:でも不思議なもので、その人自身は、寒い暑いが吹抜けのせいだとはしばらく気がつかなかったらしい。

藤山:そんなものですか。

鈴木:さすがに分かりそうなものだけどね。 なので、あらためて冬が寒いのも夏が暑いのも、全部この吹抜けのせいですよという話をして、ここをふさいで床にすれば2階の部屋も広くなって万事解決ですと説明して帰ってきた。お客さんは、いますぐフタをしてくれって雰囲気だったけど。

藤山:吹抜けに関する失敗って、いまだに後を絶ちませんね。きちんと設計すれば、非常に効果的な仕掛けなのでしょうが。

鈴木:一般的に、吹抜け=寒いというイメージがあるみたい。新築の打ち合わせで、お客さんに吹抜けのある間取りを提案すると、必ず「冬、寒くないですか?」って聞かれる。

藤山:それだけ吹抜けの失敗談が流通しているってことです。

鈴木:でも、それは吹抜けの問題じゃなくて、冷暖房選びの問題だからね。暖房機器にエアコン、石油ストーブ、ガスファンヒーターみたいなものを使用すれば、吹抜けを介して上下の温度差が激しくなるから、冬寒くなるのは当たり前。通常、吹抜けのある場所には床暖房を入れるか、家を丸ごと高断熱化するのが定石でしょ?住宅設計のイロハのイ。

藤山:そのお宅は残念でしたが、 いま現在世の中でつくられている住宅でも、相変わらず「吹抜け問題」は起きているんですかね?

鈴木:その可能性は高いんじゃないかな。吹抜けがある家はビジュアル的にはすごく格好良く見えるから、特に低価格の建売住宅のなかには寒い暑いの対策を後回しにして見た目先行でつくられているものがあるような気がする。

藤山:そもそも、そういう住宅を設計している設計者自身が、吹抜けの「正しい」つくり方を知っているのでしょうか。知らないでやっているのだとしたら、相当な勉強不足でしょう?逆に、分かってやっているのなら、それはそれで大問題ですけど……。

鈴木:何年か前に、うちの事務所にセカンドオピニオンを求めて来られたお客さんがいたの。ある工務店に自宅の設計を依頼したところ、出てきた図面がなんだかおかしいので意見をいただきたいと。さっそく見せてもらうと、たしかにおかしいんだ、その図面。一言でいうと、間取りに必然性がまったくない。面積が余ったのでなんとなく吹抜けをつくりました、壁ばかりだと寂しいのでなんとなく窓を増やしました、みたいな全体的にふわふわっとした間取り。

藤山:当然、寒い暑いのところまで、頭が回っていないでしょうね。

鈴木:昔はまだイケイケドンドンで、寒ければ暖房をたくさん回せばいいじゃないかと考えている設計者もいたけど、これだけ省エネ省エネと騒がれている時代なんだから、いつまでもそんなことは言っていられないよね。

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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